偶数電子イオンのフラグメンテーション-2:電荷移動の考え方
サイエンス出版部 発行書籍
質量分析屋の髙橋です。前回の記事に引き続き、LC/MS/MSによるプロダクトイオン分析で見られるフラグメンテーションについて解説します。今回は、偶数電子イオンのフラグメンテーション-2というタイトルにしていますが、恐らくは偶数電子イオンに特化したものではなく、LC/MS/MSで用いられる開裂法である低エネルギーCIDにおけるフラグメンテーションの考え方になります。 フラグメンテーションの基本的な考え方は、図1に示すポテンシャルエネルギー曲線によって説明できます。 図1 フラグメンテーションにおけるポテンシャルエネルギー曲線 あるイオンにCID等によってエネルギーが与えられる時、そのイオンの内部エネルギーが、イオンの中の結合が開裂する反応(フラグメンテーション)の活性化エネルギーを超えるとそのフラグメンテーションが起こります。低エネルギーCIDは、例えば四重極コリジョンセルを用いる場合、プリカーサーイオンは数eV~最大200 eV程度の運動エネルギーでHeやXeを充満したコリジョンセルに導入され、低いエネルギーで何度も衝突繰り返す事で徐々に内部エネルギーが上昇する。そして、最も低い活性化エネルギーを超えたところでそのフラグメンテーションが起こります。一つのイオンから複数のフラグメンテーションが起こり得るとき、低エネルギーでは最も低い活性化エネルギーのフラグメンテーションのみが起こり、それ以外のフラグメンテーションは基本的には起こり得ません。しかし、低分子化合物にしろペプチドにしろ、フラグメントイオンが1つしか生成しないという例は殆どありません。 前回も用いたアルギニンのプロトンが付加のプロダクトイオンスペクトルを図2に示します。 図2 アルギニンのプロトン付加分子のプロダクトイオンスペクトル 逐次反応によって複
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著者: 髙橋 豊
このセクションは、質量分析に関する技術コンサルティングを提供するエムエス・ソリューションズ株式会社 髙橋 豊 氏によるLC-MS講座です。
バイオ研究者向けにLC-MSに関する様々な話題やLC-MSの操作で注意すべき点などを分かりやすくご紹介します。
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【髙橋 豊 氏 ご略歴】
1987年3月 国立群馬工業高等専門学校卒業
1990年3月 群馬大学大学院工学研究科修士課程修了
1990年4月 日本電子株式会社入社 応用研究センターMSG研究員
2002年4月 NEDOマイクロ化学プロセス技術研究組合出向
2005年4月 解出向 同社開発本部研究員
2008年4月 横浜国立大学客員教授(~2009年3月)
2010年6月 日本電子株式会社退職
2010年8月 エムエス・ソリューションズ株式会社設立、代表取締役
2011年4月 横浜市立大学非常勤講師
2019年2月 株式会社プレッパーズ(浜松医科大学発ベンチャー)設立 代表取締役社長
【主な著書】
LC/MS定量分析入門(情報機構)
液クロ虎の巻シリーズ(丸善)
分析試料前処理ハンドブック(丸善)
液クロ実験 How to マニュアル(医学評論社)
LC/MS, LC/MS/MSの基礎と応用(オーム社)
現代質量分析学(化学同人)
【受賞歴】
2004年 日本質量分析学会奨励賞
【資格】
日本分析化学会認証 LC分析士二段、LC/MS分析士五段
【趣味】
トライアスロン、マラソン、ウルトラマラソン、ソフトボール、テニス、スキー(全日本スキー連盟指導員)、サッカー審判員(3級)