LC/MSで観測される可塑剤由来のバックグランドイオン


サイエンス出版部 発行書籍

 こんにちは。質量分析屋の髙橋です。LC/MSでは様々なバックグランドイオンが観測されます。正イオンESIで、m/z 391や413のバックグランドイオンを見た事がある人は多いと思います。この2つのイオンは、同じ物質由来です。正体は、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)です。通称DOP。分子式はC24H38O4、ノミナル質量は390、モノアイソトピック質量は390.2770です。   前述のm/z 391は、DOPのプロトン付加分子([M+H]+)、m/z 413はナトリウム付加イオン([M+Na]+)です。    DOPは可塑剤として用いられており、LC/MSにおいても、使用する容器などに含まれていると考えられます。    この両イオンをはじめとして、LC/MSで余りにも沢山のバックグラウンドイオンが高強度で観測される状況は好ましくありません。と言って、バックグランドイオンを完全にゼロにする事は不可能です。このブログで書いた様な状況は避けなければなりませんが、重要な事は、“気を付けつつも気にし過ぎない”だと思います。   私自身は、DOPのイオンは、装置のキャリブレーションの指標として積極的に使っています。私の仕事では、高分解能LC/MSを使う事が多いので、キャリブレーションはとても重要です。とは言え、無条件に毎回使う度にキャリブレーションするのではなく、今この装置がキャリブレーションを必要としている状況なのか否かを、DOPの様な既知のバックグランドイオンを見て判断しています。前述のDOPの分子式から、プロトン付加分子とナトリウム付加イオンの計算精密質量は、それぞれ391.2843, 413.2662となります。キャリブレーションする前の装置で、“両イオンの実測m/z値が計算値とどれ位ズレているか”で、その装置のキャリブレーションの必要性が判断できます。

著者: 髙橋 豊

髙橋 豊

このセクションは、質量分析に関する技術コンサルティングを提供するエムエス・ソリューションズ株式会社 髙橋 豊 氏によるLC-MS講座です。

バイオ研究者向けにLC-MSに関する様々な話題やLC-MSの操作で注意すべき点などを分かりやすくご紹介します。

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【髙橋 豊 氏 ご略歴】
1987年3月 国立群馬工業高等専門学校卒業
1990年3月 群馬大学大学院工学研究科修士課程修了
1990年4月 日本電子株式会社入社 応用研究センターMSG研究員
2002年4月 NEDOマイクロ化学プロセス技術研究組合出向
2005年4月 解出向 同社開発本部研究員
2008年4月 横浜国立大学客員教授(~2009年3月)
2010年6月 日本電子株式会社退職
2010年8月 エムエス・ソリューションズ株式会社設立、代表取締役
2011年4月 横浜市立大学非常勤講師
2019年2月 株式会社プレッパーズ(浜松医科大学発ベンチャー)設立 代表取締役社長

【主な著書】
LC/MS定量分析入門(情報機構)
液クロ虎の巻シリーズ(丸善)
分析試料前処理ハンドブック(丸善)
液クロ実験 How to マニュアル(医学評論社)
LC/MS, LC/MS/MSの基礎と応用(オーム社)
現代質量分析学(化学同人)

【受賞歴】
2004年 日本質量分析学会奨励賞

【資格】
日本分析化学会認証 LC分析士二段、LC/MS分析士五段

【趣味】
トライアスロン、マラソン、ウルトラマラソン、ソフトボール、テニス、スキー(全日本スキー連盟指導員)、サッカー審判員(3級)

【HP】
エムエス・ソリューションズのホームページ
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