LCMSで観測されるバックグランドイオン-3
サイエンス出版部 発行書籍
LC/MSで頻繁に観測されるバックグランドイオンの代表例は、少し前の記事に書いた可塑剤由来のイオンですが、他にも色々と知られています。その1つは、シロキサン由来のイオンです。そのマススペクトルを図1に示します。これは、可塑剤由来のイオンと同様、正イオン検出で観測されます。 図1 シロキサン由来のバックグラウンドイオン ☆印を付けた4つのピークのm/z差は何れも約74であり、これは(CH3)2SiOに相当します。これらのピークがシロキサン即ちケイ素原子を複数個含む化合物由来である事が判断できる理由は、各ピークの同位体パターンです。最も強度の高いm/z 536イオンはモノアイソトピックピークであり、m/z 537, 538, 539は同位体イオンです。この同位体を含むピーク群は、非常に特徴的な同位体パターンを示しています。それは、m/z 536ピークに対して+1および+2の同位体ピークの相対強度が非常に高い事です。+1は約45%、+2は約30%を示しています。通常の有機化合物の構成元素はC, H, N, O, P, S, Clなどですが、+1の同位体ピーク強度に寄与する元素は主にC、+2の同位体ピークの強度に寄与する元素はSとClです。図のマススペクトルにおいて、+1の強度からCは40個程度、また+2の強度から、Clであれば1個、Sであれば7~8個含まれている事になります。 このマススペクトルを測定したのは質量分解能約20,000の高分解能質量分析計であり、ロックマスは使用していませんが、まずまずの質量確度は得られています。その事は、前のブログにも書いたフタル酸ビス(2-エチルヘキシル)のプロトン付加分子がm/z 391.2865に観測されている事で分かります。このイオンの計算精密質量は391.2843ですから、実測値との誤差は0.0022 Da(
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著者: 髙橋 豊
このセクションは、質量分析に関する技術コンサルティングを提供するエムエス・ソリューションズ株式会社 髙橋 豊 氏によるLC-MS講座です。
バイオ研究者向けにLC-MSに関する様々な話題やLC-MSの操作で注意すべき点などを分かりやすくご紹介します。
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【髙橋 豊 氏 ご略歴】
1987年3月 国立群馬工業高等専門学校卒業
1990年3月 群馬大学大学院工学研究科修士課程修了
1990年4月 日本電子株式会社入社 応用研究センターMSG研究員
2002年4月 NEDOマイクロ化学プロセス技術研究組合出向
2005年4月 解出向 同社開発本部研究員
2008年4月 横浜国立大学客員教授(~2009年3月)
2010年6月 日本電子株式会社退職
2010年8月 エムエス・ソリューションズ株式会社設立、代表取締役
2011年4月 横浜市立大学非常勤講師
2019年2月 株式会社プレッパーズ(浜松医科大学発ベンチャー)設立 代表取締役社長
【主な著書】
LC/MS定量分析入門(情報機構)
液クロ虎の巻シリーズ(丸善)
分析試料前処理ハンドブック(丸善)
液クロ実験 How to マニュアル(医学評論社)
LC/MS, LC/MS/MSの基礎と応用(オーム社)
現代質量分析学(化学同人)
【受賞歴】
2004年 日本質量分析学会奨励賞
【資格】
日本分析化学会認証 LC分析士二段、LC/MS分析士五段
【趣味】
トライアスロン、マラソン、ウルトラマラソン、ソフトボール、テニス、スキー(全日本スキー連盟指導員)、サッカー審判員(3級)