質量分析屋の髙橋です。前回に引き続き、LC/MSで観測されるバックグランドイオンについて紹介します。前回は正イオンの例でしたが、今回は負イオンの例です。負イオン検出のESIやAPCIで、m/z 255や283のイオンを見た事はないでしょうか?前者はパルミチン酸(C16H32O2、モノアイソトピック質量256.240234 Da)、後者はステアリン酸(C18H36O2、モノアイソトピック質量284.271515 Da)の[M-H]-です。それぞれの[M-H]-の精密質量は、255.23293、283.26422となります。また、二重結合が1つ入ったm/z 253や281イオンが観測される事もあります。
下の図は、m/z 255, 283イオンが観測されている負イオン検出でのLC/MSのバックグランドマススペクトルです。

 


これらのバックグランドイオンは、移動相溶媒(有機溶媒側)にメタノールを使った時に観測され易いようです。
個人的な推測ですが、メタノールに(HPLCグレードやLC/MSグレードにおいても)僅かに含まれているのではないかと考えています。

日本電子に居た時に、HPLCグレードのメタノールをGC/MSで測定した事であります。
パルミチン酸メチルとステアリン酸メチルが検出されました。メタノールに微量に存在するパルミチン酸とステアリン酸および主成分のメタノールが、GCのインジェクターで加熱されることによってエステル化反応を起こし、パルミチン酸メチルとステアリン酸メチルが生成し、それらが検出されたのだと推測しました。

LC/MSで観測されるバックグランドイオンは敬遠される傾向がありますが、私個人としては、強度がそれ程高くなければ、安定して観測されるバックグランドイオンはむしろ歓迎します。
質量分析計の質量校正が正しく行われているか否かの指標になるし、TOF-MSのロックマスとしても使えるからです。

以前LC/MSのコンサルティングで伺った研究機関の担当の方は、LC-QTOF-MSを使っていて、以前はロックマスを使っていなかったのですが、私が書いた可塑剤由来のバックグランドイオンの記事を読んで、そのイオンをロックマスとして使ったところ、観測されるイオンのm/z値の確度が各段に上がったそうです。上記の脂肪酸由来のイオンも、安定して観測されていればTOF-MSのロックマスとして有用だと思います。

 

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