「不老長寿」は人類が太古から追い求めてきた夢ですが、その手がかりは意外な場所に隠されているかもしれません。南大西洋の孤島セントヘレナで暮らす、推定194歳の陸生動物界最高齢のアルダブラゾウガメ「ジョナサン」。その遺伝子を解析した米国の研究チームが、老化のカギを握る驚きの発見を報告しました。

この研究成果は、2026年10月7日に学術誌Science Advancesに「Epigenetic insights into extreme longevity in the world's oldest terrestrial animal, Jonathan(世界最高齢の陸生動物、ジョナサンの極限的長寿に関するエピジェネティックな知見)」というタイトルで発表されました。研究を主導したのは、米バンダービルト大学医療センターの神経腫瘍医であり、長寿研究に取り組む非営利団体カレル財団(Kallel Foundation)の代表兼チーフサイエンティストを務めるスティーブン・(ウェス・)クラーク博士(Stephen "Wes" Clark, MD, PhD)です。

ジョナサンは1832年頃にセイシェルで生まれ、1882年にセントヘレナへ送られて以来、同島の総督公邸「プランテーション・ハウス」で暮らしています。白内障で視力は失っていますが聴力は健在で、エリザベス2世をはじめ歴代の英国王室とも対面してきました。クラーク博士は、脳腫瘍の発生率が80代半ばで頭打ちになり、超高齢者では神経芽腫がほとんど見られないことに長年疑問を抱いており、「超高齢の生物は何らかの仕組みでがんから守られているのではないか」という発想から、ジョナサンの研究に乗り出しました。

研究チームが注目したのは「エントロピー」——生物システムが時間とともに乱雑になっていく現象です。老化の特徴のひとつに、細胞のエネルギー生産を担う小器官「ミトコンドリア」の機能低下があります。これは、ミトコンドリアの働きを調節する遺伝子の「プロモーター」(遺伝子のオン・オフを切り替えるスイッチ)に、乱れ(エントロピー)が蓄積することで起こるとされています。

研究チームはジョナサンの頬の内側から採取した組織サンプルからゲノムとメチローム(DNAメチル化パターンの全体像)を解読しました。DNAに結合する「メチル基」は遺伝子のスイッチをオフにする目印として働きますが、解析の結果、ジョナサンのミトコンドリア機能やRNA処理に関わる遺伝子のプロモーターでは、メチル化パターンの乱れ(メチル化エントロピー)が非常に低く、まるで若い個体のように秩序立っていることが分かりました。この"高精度な遺伝子発現"が、年齢に伴う機能低下から細胞を部分的に守っていた可能性があるといいます。この発見は、2025年に報告された117歳の女性で見つかった「極めて効率的なミトコンドリア機能」の知見とも一致するものです。

研究を率いたクラーク博士は、「この結果は、遺伝子発現の乱れによる老化の影響からミトコンドリアを保護できる可能性を示しており、健康的な寿命、すなわち"ヘルススパン"を延ばす道につながるかもしれません」と述べています。研究チームには、メチル化に基づく老化の"時計"を開発したことで知られるUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)のスティーブ・ホーヴァス博士(Steve Horvath, PhD)も参加しました。

老化防止の効果が期待されながら、特許切れのため製薬会社が臨床試験に乗り気ではない既存薬——例えば1999年に開発された免疫抑制剤ラパマイシン(rapamycin)——について、クラーク博士は「非営利団体だからこそ、製薬会社がやりたがらない臨床試験に挑戦できる」と語り、資金が確保できれば来年にも試験を開始したい考えを示しています。

研究チームは今後、血液サンプルを用いたより精密な解析でこの"ジョナサンの秘密"を検証するとともに、他の長寿種や老化に関わる別の経路についても調査を広げる予定です。

[News release] [Science Advances article]

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