膀胱がんの発見や治療効果の確認には、内視鏡を使った痛みを伴う検査が繰り返し必要とされてきました。しかし、米国スタンフォード大学の研究チームが、尿を一回採取するだけで膀胱がんを高い精度で検出し、さらに治療への反応も予測できる新しい解析技術を発表しました。尿の中に浮かぶわずかなRNAの断片を読み解くことで、病気の診断や治療方針の決定が、より気軽になる日が近づいているのかもしれません。
この研究成果は、2026年10月2日に『Nature Medicine』誌に掲載されました。オープンアクセス論文のタイトルは「Urine Cell-Free RNA for Bladder Cancer Detection and Treatment Response Prediction(膀胱がんの検出および治療反応予測のための尿cell-free RNA)」です。研究を主導したのは、米国スタンフォード大学のアシュ・アリザデー博士(Ash A. Alizadeh)、ジョセフ・リアオ博士(Joseph C. Liao)、マクシミリアン・ディーン博士(Maximilian Diehn)で、筆頭著者はウィリアム・シー博士(William Y. Shi)です。
膀胱がんは近年発症数が増加している一方、診断後も内視鏡検査による長期的なサーベイランス検査が必要となり、患者の負担が大きいことが課題とされていました。尿は膀胱がん組織に直接接する体液であり、非侵襲的に採取できることからリキッドバイオプシー(liquid biopsy:液体生検)の有力な対象とされてきましたが、尿中のcell-free RNA(cfRNA:細胞外遊離RNA)を網羅的に解析した例は限られており、これまでは少数の遺伝子の解析にとどまっていました。
研究チームは、血漿cfRNA解析手法であるRARE-Seqを尿用に最適化した「uRARE-seq」を開発しました。この手法では、尿上清から抽出したcfRNAをランダムプライミングした後、アフィニティーキャプチャによってエンリッチメントし、次世代シーケンサーで解析します。尿で希少に発現する遺伝子群(uRAG:3,834遺伝子)を含む合計4,782遺伝子をターゲットとしたパネルを使用し、全体で683試料を解析しました。
その結果、健康な人の尿cfRNAは膀胱、腎臓、前立腺など泌尿生殖器組織由来の転写産物を含むことが分かり、膀胱がんや腎細胞がん、前立腺がんの患者では、実際に腫瘍由来の転写産物が検出されました。局所性膀胱がんの検出においては感度95%、特異度90%を達成し、従来の尿腫瘍DNA解析を上回る性能を示しました。膀胱がん組織と尿cfRNAの関連性も強く(46例でR=0.91)、残存病変の検出や、手術後とBCG治療後の完全分子奏効を区別することも可能でした。
さらに興味深いことに、BCG(カルメット・ゲラン桿菌)膀胱内注入療法で完全に無病状態になった患者の治療前尿では、T細胞や免疫関連の遺伝子発現シグネチャーが豊富であった一方、治療が効かなかった患者では細胞増殖関連遺伝子の発現が高いという差が見られました。この知見を基に、114例の治療前尿データからBCG治療と化学療法のどちらが効くかを予測するモデルを作成したところ、AUC(評価指標:Area Under the Curve)は0.93と高い性能を示し、将来の再発リスクとも強く関連していました。
研究チームは、尿cfRNA解析が膀胱がんを含めた泌尿器がん全般にとって有望なバイオマーカーであると結論しています。非侵襲的な検出や治療反応予測、残存病変のモニタリングに貢献する可能性があり、今後は臨床現場での有用性を確かめる前向き研究が必要とされています。
