肺がんの免疫療法に新たな光をもたらす最新の研究成果をお届けします。近年、私たちの体に備わった免疫システムを利用してがんを攻撃する「免疫療法」が大きな注目を集めていますが、依然として多くの課題が残されています。今回、スイスのバーゼル大学などの国際研究チームは、肺がんの一種である非小細胞肺がん(NSCLC)の患者さんから採取した細胞を最先端の技術で解析し、がんを攻撃する能力に優れた「ナチュラルキラー(NK)細胞」の新たなサブセット(集団)を特定することに成功しました 。この発見は、従来の治療法が効きにくいがんに対する新たな治療戦略への道を開くものとして期待されています 。

クララ・セルジャー(Clara Serger)氏 やアルフレッド・ジッペリウス(Alfred Zippelius)博士(Alfred Zippelius) らの研究チームは、治療を受けていない非小細胞肺がん(non-small cell lung cancer: NSCLC)の患者さんから得られた組織サンプルを使用しました 。そして、細胞内の遺伝子情報を1つの細胞レベルで非常に細かく調べる「一細胞核RNA・ATACシークエンシング(matched single-nucleus RNA and ATAC sequencing)」という最先端のマルチオミクス解析手法を用い、腫瘍の内部に存在するNK細胞の遺伝子やエピジェネティックな特徴を詳細に明らかにしました 。

その結果、腫瘍組織の中に「CD103」と「CD49a」という目印(マーカー)を持つ、2つの「腫瘍関連NK(tumor-associated NK: taNK)細胞」の集団を発見しました 。これらの細胞は、がん組織に根深く留まる「組織特異的(tissue residency)」な性質と、攻撃力が弱まる「機能不全(dysfunction)」のような特徴を併せ持っていながらも、がん細胞を破壊する高い細胞傷害活性(cytotoxic function)を維持していることが分かりました 。さらに詳しく細胞の変化の軌跡を分析すると、炎症のシグナルに促される形で、初期の「GZMK陽性NK細胞」から、高い攻撃能力を持ちインターフェロン刺激遺伝子プログラムを特徴とする「CD39陽性(ENTPD1陽性) taNK細胞」へと変化していくプロセスが浮かび上がってきました 。

実験室での機能解析において、この「CD39陽性 taNK細胞」は、がん細胞を死滅させる能力が非常に高い、腫瘍内でも極めて主導的なNK細胞集団であることが実証されました 。さらに驚くべきことに、NK細胞の働きにブレーキをかける受容体である「NKG2A」を阻害する抗体治療(NKG2Aブロック)を組み合わせることで、このCD39陽性 taNK細胞による抗腫瘍効果がさらに劇的に高まることが確認されたのです 。

本研究「「Cytotoxic CD39+ tumor-associated NK cells respond to NKG2A blockade in lung cancer(肺がんにおける細胞傷害性CD39+腫瘍関連NK細胞のNKG2A阻害への応答)」」は、肺がん内におけるNK細胞の多様な分化メカニズムを分子レベルで解き明かし、CD39陽性 taNK細胞が今後の免疫療法における非常に有望なターゲットになることを明確に示しています 。

https://www.science.org/doi/epdf/10.1126/sciimmunol.aeb6645

 

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