パーキンソン病(PD: Parkinson's Disease)の患者さんにとって、歩行障害は生活の質(QOL)を大きく損ない、転倒リスクを高め、自立した生活を妨げる深刻な症状の一つです。脳深部刺激療法(DBS: Deep Brain Stimulation)は運動症状の改善に有効な治療法ですが、従来の持続的刺激(cDBS: continuous DBS)では歩行障害への効果が時間とともに薄れてしまうことが課題でした。カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)の研究チームは、歩行の“位相”にリアルタイムに同期して刺激を届ける新しい適応的脳深部刺激(aDBS: adaptive DBS)を開発し、小規模な臨床試験でその実現可能性と安全性を確認しました。

研究の背景

歩行障害はパーキンソン病患者さんの生活の質を低下させ、転倒リスクを高め、自立した生活を妨げる深刻な症状の一つです。DBS療法は当初こそ歩行障害を改善しますが、その効果は時間とともに薄れていくことが知られています。刺激の周波数を下げたり刺激部位を変えたりする試みもなされてきましたが、震え(振戦)のコントロールが悪化したり、転倒は減っても歩行のばらつきが増えたりするなど、一貫した成果は得られていませんでした。歩行は、立脚期(足が地面に接地している時期)と遊脚期(足が宙に浮いている時期)を左右交互に繰り返す、動的かつ周期的な運動です。従来のDBSは患者さんの運動状態に関わらず一定の刺激を送り続けるため、かえって歩行障害を悪化させる可能性も指摘されていました。

歩行位相に同期する適応的DBS

UCSFのケネス・H・ルーイ氏(Kenneth H. Louie)、ドリス・D・ワン博士(Doris D. Wang)らの研究チームは、脳内の局所フィールド電位(LFP: Local Field Potential、脳深部の電極で計測される神経活動)が、患者ごとの歩行位相と関連して変動することに着目しました。研究チームは、淡蒼球内節(GPi: internal Globus Pallidus)へのDBS電極と硬膜下電極パドルを埋め込んだパーキンソン病患者5例を対象とした単施設・盲検・無作為化クロスオーバー試験を実施。各患者について、皮質または淡蒼球のLFPから個別化された“歩行位相バイオマーカー”を特定し、双方向性(記録と刺激が同時に行える)神経刺激装置に組み込むことに、5例全員で成功しました。

主な結果

院内での急性期テストでは、この歩行位相同期型の適応的DBS(aDBS)は、従来の持続的刺激(cDBS)と比較して、歩幅のばらつきの低減と歩行の左右対称性の改善を示しました。その後、3例の患者が自宅環境での複数日間にわたる二重盲検クロスオーバー試験に進みました。この段階でもaDBSは、全体的な運動症状のコントロールを維持しつつ、転倒回数を減らし、患者ごとに異なる歩行指標の改善をもたらしました。重篤な有害事象は認められず、忍容性も良好でした。

研究の意義

今回の結果は、患者個別のバイオマーカーに基づき、身体の動きに同期して働く神経刺激療法が実現可能であることを世界で初めて示したものです。研究チームは、この歩行位相同期型aDBSが、従来のDBSでは十分に対応できなかった歩行障害への新たな治療パラダイムになりうるとし、有効性を検証するためのより大規模な無作為化試験の実施を目指すとしています。本試験はClinicalTrials.gov(登録番号: NCT04675398)に登録されています。

本研究論文は、2026年6月15日に『Nature Medicine』誌にオンライン掲載されました。タイトルは「Adaptive deep brain stimulation for dynamic gait control in Parkinson's disease: a randomized feasibility trial(パーキンソン病における動的歩行制御のための適応的脳深部刺激:無作為化フィージビリティ試験)」です。研究を主導したのは、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)のケネス・H・ルーイ氏、および責任著者のドリス・D・ワン博士です。

[Nature Medicine article]

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