ダニが媒介し、重篤で時に致死的な感染症を引き起こす「クリミア・コンゴ出血熱ウイルス(CCHFV: Crimean-Congo haemorrhagic fever virus)」。有効なワクチンや承認された治療薬が存在しないことから、世界保健機関(WHO)も緊急の対策が必要な最優先病原体として指定しています。この致死率の高い未知の脅威に対し、特効薬の鍵となるウイルスの「心臓部」の構造がついに解明されました!
クリミア・コンゴ出血熱ウイルス・ポリメラーゼの立体構造と阻害機構の解明
クリミア・コンゴ出血熱ウイルス(CCHFV)のLタンパク質は、ウイルスのゲノム複製と転写を担うRNA依存性RNAポリメラーゼ(CCHFV-L: CCHFV RNA-dependent RNA polymerase)として機能し、抗ウイルス薬開発における最も有望な標的とされています。CCHFV-Lはブニヤウイルス目に属するウイルスの中でも最大級のポリメラーゼ構造を持っていますが、その詳細な立体構造や機能阻害の仕組みは長年大きな謎に包まれていました。
今回、ルー・シュエ(Lu Xue)博士、ジアチェン・グイ(Jiacheng Gui)博士、ハイネイ・パン(Hainei Pan)博士、シャオリ・シオン(Xiaoli Xiong)博士 らの国際研究チームは、クライオ電子顕微鏡(Cryo-EM: 冷凍電子顕微鏡)を用いてCCHFV-Lの伸長複合体の立体構造を高分解能で捉えることに成功しました。さらに、既存の実験的阻害剤がこの巨大なポリメラーゼを阻害する分子メカニズムを解明しました。本研究成果は学術誌『Nature』に「「Structures and inhibition of the Crimean–Congo haemorrhagic fever virus polymerase(クリミア・コンゴ出血熱ウイルス・ポリメラーゼの構造と阻害機構)」」として発表されました。
伸長反応に伴う巨大ポリメラーゼの構造変化
研究チームは、in vitro(試験管内)でCCHFV-LによるRNA合成を可能にする補因子を特定し、実際にRNA鎖を伸ばしている「伸長状態」のCCHFV-L-RNA複合体構造の捕獲に成功しました。
- 巨大なポリメラーゼ建築の解明: CCHFV-Lは、他のブニヤウイルス目やインフルエンザウイルスのポリメラーゼと比較して大幅に拡大した構造を持っていることが明らかになりました。
- 周辺ドメインの秩序化: RNAの合成(伸長反応)が進むにつれて、これまで無秩序だったポリメラーゼの周辺ドメインがコア領域へと段階的に組み合わさり、構造が整えられていく様子が捉えられました。
2つの異なるメカニズムによる抗ウイルス阻害の発見
さらに研究チームは、2種類の阻害剤がCCHFV-Lの異なる部位を標的にして活性を阻害する分子メカニズムを構造的に定義しました。
- バロキサビル誘導体「WXSH0208」: インフルエンザ治療薬バロキサビル由来の化合物WXSH0208は、ポリメラーゼのキャップ依存性エンドヌクレアーゼ(endonuclease: 核酸内切断酵素)活性部位に結合し、その働きを阻害します。
- ヌクレオシド類似体「2'-デオキシ-2'-フルオロシチジン(2FC)」: ナノモル濃度で強力な細胞内抗ウイルス効果を示すヌクレオシド類似体2FCは、RNA鎖に取り込まれた後、転移後チェイン・ターミネーション(RNA鎖合成の伸長停止)を引き起こすことでポリメラーゼの動きを停止させます。
本研究によって得られたCCHFV-Lの精密な原子構造と阻害機構の知見は、今後CCHFVに対する効果的で合理的な分子設計に基づく抗ウイルス阻害剤(薬剤)の開発を大きく推進する強力なガイドラインとなることが期待されています。
