ChatGPTのような大規模言語モデルは、大量のテキストを学習することで、文脈に応じた汎用的な理解を獲得します。もし同じような発想を「細胞」に応用できたら――あらゆる種類の細胞を、あらゆる生物種を超えて理解できる「共通言語」が手に入るかもしれません。そんな野心的な研究が、科学誌「Nature」に発表されました。

米国スタンフォード大学(Stanford University)のヤナイ・ローゼン氏(Yanay Rosen)らを中心とする国際共同研究チーム(Tabula Sapiens Consortium)は、「「細胞生物学のための基盤モデルを提供する普遍的細胞埋め込み(Universal cell embedding provides a foundation model for cell biology)」」という論文を発表しました。

研究チームが開発したのは、「UCE(Universal Cell Embedding、ユニバーサル・セル・エンベディング)」と呼ばれるAIモデルです。UCEは、ヒトやマウス、ゼブラフィッシュ、ブタ、マカクザル、コビトネズミキツネザル、カエルなど8種類の生物種、1,000種類以上の細胞タイプ、300以上のデータセットから集められた約3,600万個の細胞データを使って、自己教師あり学習(self-supervised learning)で訓練されました。細胞タイプの注釈(アノテーション)を一切使わずに、遺伝子発現パターンだけから細胞を「バッグ・オブ・RNA(bag of RNA)」として捉え、タンパク質の配列情報をもとにした埋め込み表現(embedding)と組み合わせることで、生物種を超えて細胞を同じ座標空間上に配置できるようにしています。

このモデルの性能は、既存手法を大きく上回るものでした。代表的な比較手法「Geneformer(ジーンフォーマー)」と比べて、総合スコアで13.9%、生物学的な情報の保持を示すスコアで16.2%、バッチ間の補正精度を示すスコアで10.1%、それぞれ上回る結果を示しました。さらに、訓練データに含まれていなかった生物種(グリーンモンキーやハダカデバネズミなど)の細胞データに対しても、追加の学習や微調整(ファインチューニング)を一切行わずに、細胞タイプを高い精度で識別できることが確認されました。たとえばグリーンモンキーのリンパ節細胞では、17種類の細胞タイプのうち13種類で、別の生物種の中から最も近い細胞タイプを正しく紐づけることができたといいます。

一方で研究チームは、いくつかの限界も指摘しています。訓練データがヒトやマウス、特に脳組織に偏っていること、モデルの判断根拠が見えにくい「ブラックボックス」的な性質を持つこと、遺伝子発現の細かい定量的な違いがembeddingの過程で失われることなどです。

それでも研究チームは、UCEが「バーチャル細胞(virtual cell)」という長年の構想に向けた重要な一歩になるとしています。単一のモデルを使い回すだけで、新しいデータセットや未知の生物種に対しても前処理や再学習なしに解析できる汎用性は、今後の細胞生物学研究のあり方を変える可能性があります。

 [Nature誌記事] [DOI: 10.1038/s41586-026-10689-z]

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