リンパ節にある特殊な血管が、免疫細胞を呼び込む際に使う仕組みを少し変えるだけで、炎症の勢いを抑えられるかもしれません。免疫細胞そのものを抱えるのではなく、血管側に目を向けるという発想が、新たな抗炎症戦略の手がかりになる可能性を示した研究が、科学誌「Immunity」に発表されました。
ベルギー・VIB-ルーヴェンカトリック大学(VIB-KU Leuven)のキャスリン・ジェイコブス博士(Kathryn Jacobs, PhD)やガブリエレ・ベルガーズ教授(Gabriele Bergers)らの国際共同研究チームは、「「炎症時における高内皮細静脈のアイデンティティと機能を維持するオートファジー(Autophagy maintains high endothelial venule identity and function during inflammation)」」という論文を発表しました。
リンパ節にある「高内皮細静脈(HEV: high endothelial venule)」という特殊な血管は、血液中を巡回するリンパ球を捕まえてリンパ節内に呼び込む役割を担っています。この捕捉に使われるのが、HEVの細胞表面にある「PNAd(末梢リンパ節アドレシン: peripheral node addressin)」と呼ばれる目印です。感染時にはPNAdの産生が増え、より多くの免疫細胞が呼び込まれますが、この同じ仕組みが慢性的な炎症性疾患では症状を悪化させる要因にもなります。
研究チームは、細胞が不要になった成分を分解・再利用する仕組み「オートファジー(自食作用: autophagy)」が、HEVのPNAd産生とその機能維持に必要であることを突き止めました。オートファジーを阻害するとPNAdのレベルが低下し、リンパ球の呼び込みが減少しました。興味深いことに、この効果はHEVに特有のもので、他のタイプの血管でオートファジーを阻害すると、逆に炎症反応が増加することも分かりました。
乾癬(かんせん)様の皮膚炎症を起こしたマウスモデルを用いた実験では、HEVのオートファジーを阻害すると、免疫細胞の浸潤と皮膚の炎症がともに軽減されました。また、LTβR(リンホトキシンβ受容体)を薬理学的に阻害する薬剤でも同様の効果が再現され、この経路を標的とした治療への応用可能性が示されました。
筆頭著者のジェイコブス博士は、「HEVであるためには、細胞表面にPNAdを持っている必要があります。これは、免疫細胞に血流を離れてリンパ節に入るよう伝える「粘着性のあるコーティング」のようなものだとイメージしてください」と説明しています。また、「興味深いのは、他のタイプの血管でオートファジーを阻害すると、逆に炎症反応が増加するという点です。オートファジーはHEVにおいて本当に独特な役割を果たしています」とも述べています。
責任著者のベルガーズ教授は、「免疫細胞ではなくHEVを標的にすることは、正常な免疫機能を保ちながら炎症を抑える有望な戦略になり得ます」とコメントしています。研究チームは今後、より効果的なLTβR拮抗薬の開発に取り組む予定だといい、乾癬だけでなくさまざまな自己免疫疾患の治療につながる可能性に期待を寄せています。
