世界で8億人以上が罹患しているといわれる慢性腎臓病(CKD)。しかし、その多くは自覚症状に乏しく、気づかれないまま進行してしまうことも少なくありません。もし、心臓の検査である心エコー(心臓超音波検査)の動画から、AIがCKDの兆候を見つけ出すことができたら――。米国の研究チームが、そんな新しいスクリーニングの可能性を示す研究成果を発表しました。
この研究成果は、2026年9月18日に『Med』誌(Cell Press)にオンライン掲載されました。オープンアクセス論文のタイトルは「Deep Learning-Enabled Screening of Chronic Kidney Disease from Echocardiography(心エコーからのディープラーニングを用いた慢性腎臓病のスクリーニング)」です。研究を主導したのは、米国シダーズ・サイナイ医療センター(Cedars-Sinai Medical Center)スミット心臓研究所のデビッド・オーヤン博士(David Ouyang)で、筆頭著者はビクトリア・ユアン氏(Victoria Yuan、UCLAデヴィッド・ゲフィン医学部/シダーズ・サイナイ)です。
CKDは世界で推定8億5,000万人が罹患しているとされていますが、その60%以上が診断されないまま見過ごされているといわれています。一方で、CKDは心血管疾患(CVD)と密接に関連していることが知られています。研究チームはこの関連性に着目し、心血管疾患の評価のために日常的に撮影されている心エコー動画から、追加の検査なしにCKDを検出できないか検討しました。
研究チームは、シダーズ・サイナイ医療センターで撮影された62,818人の患者による32万5,377本の心エコー動画(傍胸骨長軸像)を用いて、ディープラーニングモデル(R(2+1)D畳み込みニューラルネットワーク)を訓練しました。このモデルは、心エコー検査から1ヶ月以内のCKDの有無を、動画のみから予測するよう設計されています。患者単位でデータを訓練用・検証用・テスト用に分割したうえで、さらにスタンフォード大学やカイザー・パーマネンテ北カリフォルニア(KPNC)の独立した医療機関のデータを用いた外部検証も実施しました。
その結果、シダーズ・サイナイのテストデータにおいて、あらゆる病期のCKDを検出する能力を示すAUC(ROC曲線下面積)は0.756(95%信頼区間:0.749-0.763)を記録しました。外部検証でも、KPNCでAUC 0.718、スタンフォード大学病院でAUC 0.719と、一貫した性能が確認されました。モデルの判断根拠を可視化する解析(Grad-CAM)では、僧帽弁や左心房といった部位に注目していることが分かり、代謝性の併存疾患の有無にかかわらず安定した精度を示しました。
論文では、「私たちのディープラーニング心エコーモデルは、2つの外部臨床施設においても頑健な性能でCKDを検出しました。これは、非侵襲的なスクリーニングと検出率向上への道を開くものです」と結論づけられています。研究チームは、すでに日常診療で広く行われている心エコー検査にこのモデルを組み込むことで、追加の検査負担なしに未診断のCKD患者を見つけ出し、早期の治療介入につなげられる可能性があるとしています。解析に用いたモデルのコードはGitHub上で公開されており、他施設での検証や応用も期待されます。
[Med誌掲載論文]
