プロトン移動を伴うイオン化におけるイオン化抑制現象


サイエンス出版部 発行書籍

質量分析屋の髙橋です。以前の投稿で、エレクトロスプレーイオン化(ESI)において起こるイオン化抑制について解説しました。  ESIで他のイオン化法に比べてイオン化抑制が顕著に起こるのは、エネルギー供給が絶たれた帯電液滴からのイオン生成プロセスに原因の一旦があります。   その解説の第二段を書くのを忘れていたのですが、その前に、ESI以外にもイオン化抑制現象が見られるイオン化がありますので、その事について書いておこうと思います。   それは、プロトン移動を伴うイオン化に共通して起こると考えられます。具体的には、化学イオン化(chemical ionization, CI)、高速原子衝撃(fast atom bombardment, FAB)イオン化、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(matrix assisted laser desorption / ionization, MALDI)、大気圧化学イオン化(atmospheric pressure chemical ionization, APCI)などで起こり得ます。 それは、プロトン移動を伴うイオン化においては、プロトン親和力が支配的だからです。   上で挙げたイオン化(正イオン検出)において、分析種(A)と夾雑成分(M)が共存していて、Mのプロトン親和力がAよりも大きかったと仮定します。そうすると、プトロンはMに優先的に付加して[M+H]+イオンが生成し易い環境になり、結果としてAにプロトンが付加する確率が低くなる(Aのイオン化が抑制される)ことになります。  これが、プロトン移動を伴うイオン化におけるイオン化抑制です。負イオン検出で脱プロトン化分子が生成する時のイオン化抑制については、恐らく違うプロセスになると思いますが、それはまた別の機会に考えてみたいと思います。

著者: 髙橋 豊

髙橋 豊

このセクションは、質量分析に関する技術コンサルティングを提供するエムエス・ソリューションズ株式会社 髙橋 豊 氏によるLC-MS講座です。

バイオ研究者向けにLC-MSに関する様々な話題やLC-MSの操作で注意すべき点などを分かりやすくご紹介します。

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【髙橋 豊 氏 ご略歴】
1987年3月 国立群馬工業高等専門学校卒業
1990年3月 群馬大学大学院工学研究科修士課程修了
1990年4月 日本電子株式会社入社 応用研究センターMSG研究員
2002年4月 NEDOマイクロ化学プロセス技術研究組合出向
2005年4月 解出向 同社開発本部研究員
2008年4月 横浜国立大学客員教授(~2009年3月)
2010年6月 日本電子株式会社退職
2010年8月 エムエス・ソリューションズ株式会社設立、代表取締役
2011年4月 横浜市立大学非常勤講師
2019年2月 株式会社プレッパーズ(浜松医科大学発ベンチャー)設立 代表取締役社長

【主な著書】
LC/MS定量分析入門(情報機構)
液クロ虎の巻シリーズ(丸善)
分析試料前処理ハンドブック(丸善)
液クロ実験 How to マニュアル(医学評論社)
LC/MS, LC/MS/MSの基礎と応用(オーム社)
現代質量分析学(化学同人)

【受賞歴】
2004年 日本質量分析学会奨励賞

【資格】
日本分析化学会認証 LC分析士二段、LC/MS分析士五段

【趣味】
トライアスロン、マラソン、ウルトラマラソン、ソフトボール、テニス、スキー(全日本スキー連盟指導員)、サッカー審判員(3級)

【HP】
エムエス・ソリューションズのホームページ
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