私たちの脳の働きを支える"配線"というと、多くの人は神経細胞の本体が集まる「灰白質」を思い浮かべるかもしれません。しかし、その配線を実際につなぐ神経線維の束である「白質」にも、独自の機能的な信号が流れていることをご存知でしょうか。今回、中国脳科学研究所(Chinese Institute for Brain Research: CIBR、北京)の研究チームが、白質の機能的結合(FC: functional connectivity)が、灰白質だけでは説明できない脳の年齢や認知機能、さらには注意欠陥・多動性障害(ADHD: attention-deficit/hyperactivity disorder)の症状に関する独自の情報を持っていることを、4つの大規模コホート研究から明らかにしました。

この研究成果は、2026年8月10日に「Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)」誌に掲載されました。論文タイトルは「White-matter Functional Connectivity Uniquely Predicts Brain Age, Cognition, and Psychopathology Beyond Gray-matter Connectivity(白質の機能的結合は灰白質の結合を超えて脳年齢・認知機能・精神病理を独自に予測する)」です。

脳の神経線維は、これまで長らく信号を伝えるための"配線"としての構造的な役割にのみ注目され、機能的MRI(fMRI)を用いた機能的結合の解析は、主に神経細胞体が集まる灰白質(GM: gray matter)領域を対象に行われてきました。しかし近年、白質(WM: white matter)領域そのものにも機能的な信号の変動が存在することが分かってきており、それが灰白質の情報と重複しているのか、それとも独自の価値を持つのかは、これまで明らかにされていませんでした。

研究チームは、小児期から若年成人期にかけての発達段階をカバーする4つの独立したコホート(PNC、devCCNP、HCP-D、ABCD)、合計2,370人分の脳画像データを解析しました。その結果、白質同士(白質-白質)および灰白質と白質(灰白質-白質)の機能的結合が、個人ごとの脳年齢の違いを頑健に予測できることが判明しました。しかも、この予測力は灰白質の機能的結合の影響を統計的に取り除いた後でも有意に残っており、両者が重複しない独自の情報を運んでいることが示されました。

さらに研究チームは、4,388人を対象とした認知機能検査データ、4,465人を対象としたADHD症状のデータについても解析を行いました。ここでも、白質の機能的結合は灰白質の情報だけでは説明できない独自の分散を説明することが確認されました。どの白質経路が予測に貢献しているかを詳しく調べたところ、左右の大脳半球をつなぐ交連線維、皮質と皮質下をつなぐ投射線維、皮質のすぐ下を走る表在性線維、同側の皮質領域同士をつなぐ連合線維など、複数の白質経路がそれぞれ構造化された形で寄与していることも分かりました。

これらの結果は、白質の機能的結合が単なる灰白質信号の"漏れ"や副産物ではなく、ヒトのコネクトーム(脳内の神経回路網)を構成する独立した、行動的に意味のある要素であることを示しています。研究チームは、灰白質だけに基づいてきた従来の脳ネットワークモデルに白質の機能的結合を組み込むことで、神経発達や精神疾患をより包括的に理解するための新しい枠組みが得られる可能性があるとしています。

なお、今回の解析には複数の大規模発達コホートのデータが用いられていますが、対象は主に小児期から若年成人期に限られており、より高齢の集団や多様な地域集団における検証は今後の課題です。

[Lab news] [PNAS article]

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