世界的に患者数が増え続けている炎症性腸疾患(IBD: Inflammatory Bowel Disease)。その発症や進行には腸内細菌叢が深く関わっていると考えられていますが、国や地域によって疫学的な状況が異なるため、その全体像を掴むことは容易ではありませんでした。今回、70カ国・11万7799検体という前例のない規模のデータを統合し、IBDの疫学的な進行段階ごとに特徴的な腸内細菌叢のシグネチャを描き出す"世界地図"が発表されました。

研究の概要

本研究は、Cell Reports Medicine誌に2026年8月10日にオンライン掲載された論文「Global Gut Microbiome Atlas Identifies Epidemiologic-Stage-Specific Signatures in Inflammatory Bowel Disease(グローバル腸内細菌叢アトラスが炎症性腸疾患における疫学的進行段階特異的シグネチャを同定する)」に基づきます。責任著者はコン・ダイ博士(Cong Dai, PhD、中国医科大学附属第一医院消化器内科)です。IBDの世界的な増加は環境要因の変化を反映していると考えられていますが、疫学的な進行段階と腸内細菌叢の生態系との関連は十分に解明されていませんでした。

主な発見

研究チームは、70カ国・482のBioProjectから収集した16S rRNAアンプリコン配列データ11万7799検体(合計24万5627プロファイル)を統合し、IBDの疫学的進行段階別に腸内細菌叢の16Sアトラスを構築しました。IBDの疾病負荷が高い地域ほど腸内細菌叢の多様性(アルファ多様性)が低下し、コア属の勾配に応じて明確に異なる細菌叢クラスターが形成されることが分かりました。例えば、Blautia属はIBDの進行とともに増加する一方、Escherichia/Shigella属は逆の傾向を示しました。ショットガンメタゲノム解析では、IBD患者で同化代謝経路の減少が確認され、株レベルの解析では、便中のコール酸濃度上昇と相関するIBD関連のEisenbergiella属のサブクレードが新たに同定されました。さらに、19属の細菌データから算出する「微生物性炎症リスクスコア(MIRS: Microbial Inflammatory Risk Score)」を開発し、IBD患者と健常者を高精度で識別できること(AUC=0.92)、そのスコアがIBDの有病率とも相関することを示しました。

手法の特徴

研究チームは、公開データベースに登録された11万件を超える16S rRNAアンプリコン配列サンプルを統合し、各国をIBDの疫学的進行段階別に分類しました。さらに6つのショットガンメタゲノムコホートを組み合わせて機能・株レベルの解析を行い、系統解析と代謝プロファイリングを組み合わせることで、地域差・進行段階による腸内細菌叢の違いを立体的に描き出しています。

意義・今後の展望

本研究は、疫学的状況と腸内細菌叢の生態系、さらには菌株レベルの進化までを橋渡しする初めての大規模アトラスであり、IBDに対する集団レベルでのサーベイランスや介入戦略を検討するための基盤となることが期待されます。研究チームは、今回開発したMIRSのような指標が、将来的には地域や集団ごとのIBDリスク評価に応用できる可能性があるとしています。

[Cell Reports Medicine誌]

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