脳腫瘍の中でも特に悪性度が高い膠芽腫(GBM)。がん細胞は、細胞同士が細い管でつながる「ネットワーク」を築いて生き延びていると考えられています。今回、フランスのパスツール研究所(Institut Pasteur)などの研究チームが、その管を通じて、がん細胞と脳の支持細胞であるアストロサイトの間でミトコンドリアが双方向にやり取りされていること、そしてその様子を生きた動物の体内でも捉えられることを報告しました。

細い管「トンネリングナノチューブ」でつながる細胞たち

トンネリングナノチューブ(TNT: tunneling nanotube)は、離れた細胞同士をつなぐ細長い突起状の構造で、ミトコンドリアなどの細胞内小器官の受け渡しに使われることが知られています。がんの進行には、こうしたTNT様の接続によるネットワーク形成が関わるとされてきましたが、がん細胞と腫瘍以外の細胞との間でミトコンドリアが移動すると何が起こるのか、また生体内でも起きているのかは、よく分かっていませんでした。

研究チームは、キアラ・ズルツォロ(Chiara Zurzolo)博士らのグループ(パスツール研究所、パリ・シテ大学)です。研究成果は2026年9月15日付で「Nature Communications」に掲載されました。

論文:「Tunneling nanotubes regulate mitochondrial homeostasis between glioblastoma and astrocytes, and between tumor cells in vivo(トンネリングナノチューブは膠芽腫とアストロサイトの間、および生体内の腫瘍細胞間でミトコンドリアの恒常性を調節する)」

双方向のミトコンドリア移動と、その「意味」

研究では、GBM細胞とヒト非腫瘍性のアストロサイトを共培養し、タイムラプス顕微鏡で観察しました。その結果、GBM細胞とアストロサイトの間でミトコンドリアが双方向に移動していることが確認されました。

  • がん細胞 → アストロサイト:損傷したミトコンドリアが受け手であるアストロサイトに移ると、その細胞でミトファジー(mitophagy:傷んだミトコンドリアを分解する仕組み)が活性化することが分かりました。
  • アストロサイト → がん細胞:アストロサイト由来のミトコンドリアが移ると、GBM細胞のミトコンドリア活性や代謝指標に変化が見られました。

つまり、がん細胞は傷んだミトコンドリアを周囲に「押し付け」、代わりに周囲の細胞から機能するミトコンドリアを受け取ることで、自らの状態を整えている可能性が示されたことになります。

生きた動物の体内でTNTを可視化

今回の重要な点は、培養皿の中の現象にとどまらなかったことです。研究チームは、生体内サブセルラー顕微鏡(ISMic: intravital subcellular microscopy)を用い、生きた動物モデルの中でTNTのつながりを観察しました。生体内で見えたTNTは培養細胞で観察されたものと似た特徴を持ち、TNTを介したミトコンドリアの移動を裏付けるものでした。

培養細胞(U251 GBM細胞株)の解析では、TNTの長さの中央値は約35マイクロメートル、見かけの直径の中央値は約660ナノメートルで、持続時間の中央値は約1時間でした。ミトコンドリアの動きの解析からは、受動的な拡散ではなく能動的な輸送が行われていることが示唆されています。

治療標的としての可能性

研究チームは、これらの結果が腫瘍の環境への適応メカニズムの一端を示すものであり、TNTが治療標的になり得ると述べています。今後は、TNTの形成や機能を抑えることで、がん細胞の生存や進行にどのような影響が出るのかが焦点となりそうです。

※本記事は論文の要約情報に基づく紹介です。詳細は原著論文をご確認ください。

[原著論文(Nature Communications)] [DOI: 10.1038/s41467-026-76619-9]

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