筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS:myalgic encephalomyelitis/chronic fatigue syndrome)は、激しい倦怠感や運動後の症状悪化などを特徴とする原因不明の疾患で、世界的にその生物学的基盤の解明が急がれています。英エディンバラ大学の研究チームは今回、大規模なバイオバンクデータを用いたゲノムワイド関連解析(GWAS)により、ME/CFSと再現性をもって関連する7つの遺伝的座位を同定したとする研究成果を、プレプリントサーバーmedRxivに発表しました。論文タイトルは「Seven replicated genomic associations of myalgic encephalomyelitis/chronic fatigue syndrome: a biobank study(筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群の再現性ある7つの遺伝的関連因子:バイオバンク研究)」です。
研究チームは、これまでのME/CFS研究で課題となっていた「症例の定義の曖昧さ」を克服するため、自己申告による診断情報に加え、健康評価アンケートや痛みに関する質問票など複数の情報源を組み合わせて症例を厳密に定義する手法を採用しました。英国UK Biobankから1,268例の症例と11万3,132例の対照群を抽出して発見コホートとし、統計手法「TarGene」(ターゲット学習に基づく半パラメトリックかつ二重にロバストな推定法)を用いてゲノムワイド関連解析を実施。その結果、統計的に有意な176個の遺伝的バリアント(偽発見率5%未満)が見つかりました。
これらの候補について、UK Biobank内の別集団(319例)と、米国の大規模研究プログラム「All of Us Research Program」の欧州系集団(371例)という、2つの独立した複製コホートで検証したところ、7つの座位が再現性をもって関連することが確認されました(3コホートすべてで有意だったものはありませんでした)。中でも1つの座位については、遺伝子CLYBLの発現低下と重なる「クレディブルセット」が線条体(putamen)で同定されています。ほかにBICD1、GRIN2A、CSMD1、RORAといった遺伝子を含む座位も関連候補として挙げられています。性別や社会経済的な困窮度との交互作用については、多重検定補正後には統計的に有意な差は見られませんでした。また、英国の大型ME/CFS研究「DecodeME」で報告された座位との重複は確認されませんでした。研究チームは、この違いが症例の定義方法やコホートごとの特性の差に起因する可能性を指摘しています。
本研究は、エディンバラ大学の遺伝学・がん研究所および情報学部のジョシュア・スローター(Joshua Slaughter)氏を筆頭著者とし、同大学のクリス・ポンティング(Chris Ponting)博士を責任著者として行われました。ポンティング博士の研究グループはこれまでもME/CFSの遺伝学的研究に取り組んできたことで知られています。
今回の研究は、これまで一貫した結果が得られにくかったME/CFSの遺伝学的研究において、複数の情報源による症例定義と、独立した複製コホートでの検証という厳密な手法を組み合わせることで、再現性の高い候補座位を示した点に意義があります。CLYBLをはじめとする候補遺伝子は代謝や神経系に関わる可能性があり、今後の機能解析やバイオマーカー・治療標的の探索につながることが期待されます。また、症例定義の違いが結果に与える影響の大きさも示されており、今後のME/CFS研究における表現型定義の重要性を浮き彫りにしました。
論文はCC-BY 4.0ライセンスのもと、オープンアクセスで公開されています。
