全身の広範な痛みを引き起こす線維筋痛症は、長年その根本原因が不明とされてきました。今回、250万人を超える大規模データを用いたゲノム解析により、本疾患の発症に関わる26の遺伝子領域が世界で初めて特定され、その病態の全貌が解明されつつあります。

250万人を対象とした多集団ゲノム解析により解明された線維筋痛症の遺伝的背景

線維筋痛症(fibromyalgia)は、全身の骨格筋痛、疲労感、睡眠障害、認知機能障害、体感症状を伴う慢性的で生活の質を著しく低下させる疾患です。中心性感作(central sensitization)やノシプラスチックペイン(nociplastic pain: 神経障害性や傷害受容性の明確な根拠がない痛み)の代表的疾患と考えられていますが、具体的な遺伝的要因は解明されていませんでした。

カナダのルネフェルド・タネンバウム研究所(Lunenfeld-Tanenbaum Research Institute)のイザベル・ケレビン(Isabel Kerrebijn)氏、マイケル・ウェインバーグ(Michael Wainberg)博士らの研究チームは、11のコホートから得られた2,563,755名(症例54,629名、対照2,509,126名)の多集団ゲノムワイド関連解析(GWAS: genome-wide association study)メタアナリシスを実施し、研究論文「The genetic architecture of fibromyalgia across 2.5 million individuals(250万人を対象とした線維筋痛症の遺伝的構築)」を発表しました。

 

研究チームは、11の国際的コホートからICD-10コード(M79.7)に基づいて診断された線維筋痛症患者のデータを収集し、祖先集団およびコホートごとに品質管理を行った上で固定効果逆分散加重メタアナリシスを実施しました。さらに、ゲノム領域の機能アノテーション、単一細胞レベルでの遺伝的遺伝率の細胞・組織濃縮解析(LDSC-SEG: LD score regression applied to specifically expressed genes)、他疾患との遺伝的相関解析を行いました。

 

結果

解析の結果、線維筋痛症のリスクに関連する26の独立したゲノム領域(risk loci)が特定されました。

  • 主要遺伝子:最も強い関連を示したのは、ハンチントン病の原因遺伝子であるHTTのタンパク質符号化領域におけるバリアント(rs149109767-A)でした。また、HTTの発現を調節するGPR52や、神経発達・シナプス可塑性に関与するDCC、DRD2/NCAM1、MDGA2、CELF4などの遺伝子が原因候補として優先付けられました。
  • 組織・細胞特異性:遺伝率の濃縮解析(LDSC-SEG)を行ったところ、遺伝的要因は脳組織(大脳皮質、尾状核、前頭葉皮質など)および神経系細胞(歯状回神経元、腸管神経元など)にのみ排他的に濃縮されていることが判明しました。
  • 合併症との遺伝的相関:変形性腰痛症、過敏性腸症候群(IBS: irritable bowel syndrome)、PTSD(PTSD: post-traumatic stress disorder)などの精神疾患や体感障害と0.7を超える極めて高い正の遺伝的相関が観察されました。
  • 性差の一貫性:線維筋痛症の罹患率は女性で顕著に高くなっていますが(症例の87.7%)、男性と女性の間で遺伝的構造(genetic architecture)はほぼ完全に同一であることが確認されました。

 

考察

本研究は、線維筋痛症が主に中枢神経系(CNS: central nervous system)の機能異常に起因する疾患であることを強力な遺伝学的データによって裏付けるものです。性差による発症率の違いは遺伝子そのものの違いではなく、環境的要因や非遺伝的な生物学的要因による可能性が高いことが示唆されました。また、HTTを調節するGPR52や、痛みの感受性を制御するCELF4といった分子は、線維筋痛症の新たな創薬標的として非常に有望と考えられます。

https://www.nature.com/articles/s41591-026-04492-6

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