血糖値コントロールの要であり、1型糖尿病で攻撃されてしまう「膵島β細胞」。このピンポイントな細胞に治療用メッセンジャーRNA(mRNA)を送り届けるという、まるで夢のようなDDS(Drug Delivery System: 薬物配送システム)技術が誕生しました!

脂質ナノ粒子を用いた膵島β細胞へのメッセンジャーRNA配送システムの開発

1型糖尿病(T1D: Type 1 diabetes)は、インスリンを分泌する膵島β細胞が自身の免疫系によって破壊される自家免疫疾患です。従来の治療法は全身的な免疫抑制が主流であり、β細胞そのものを保護・修復するアプローチは配送技術の難しさから困難とされてきました。

今回、ジェイコブ・R・エンリケス(Jacob R. Enriquez)博士、ジェンジエ・ジョウ(Zhengjie Zhou)博士、ラグハヴェンドラ・G・ミルミラ(Raghavendra G. Mirmira)博士 らの研究チームは、膵島β細胞へ特異的にmRNAを届けるナノ粒子技術を開発しました。研究成果は「「Messenger RNA delivery to islet $\beta$ cells using conjugated lipid nanoparticles(修飾脂質ナノ粒子を用いた膵島$\beta$細胞へのメッセンジャーRNA配送)」」と題され、科学誌『Cell Reports Medicine』に掲載されました。

eGLP-1ペプチド修飾によるβ細胞指向性の向上

研究チームは、低分子量ポリアミドアミン(PAMAM)化合物GO-C14などをベースとした脂質ナノ粒子(LNP: lipid nanoparticle)を構築しました。さらに、β細胞表面に豊富に発現するGLP-1受容体(GLP-1R: Glucagon-like peptide-1 receptor)に着目し、リガンドである修飾型ペプチド「eGLP-1」を表面に結合させたeGLP-LNPを作製しました。

  • 高効率な封入: eGLP-LNPは直径約75 nmで、約99%という高いmRNA封入効率を示しました。
  • 特異的受容体結合: eGLP-LNPはGLP-1Rに特異的に結合して細胞内へと取り込まれる(エンドサイトーシス)ことが受容体内在化アッセイにより確認されました。
  • in vitroおよびin vivoでの指向性: マウスおよびヒトの単離膵島において、eGLP-LNPは$\alpha$細胞などの他細胞種と比較してβ細胞へ選択的に蛍光mRNAカーゴを導入しました。

PD-L1 mRNAによる1型糖尿病発症の遅延とヒト膵島での実証

治療効果の実証として、研究チームは免疫チェックポイント阻害タンパク質であるPD-L1をコードするCD274 mRNAをLNPに封入し、1型糖尿病モデルであるNOD(Non-obese diabetic)マウスに投与しました。

  1. 自己免疫応答の抑制: 6週齢のNODマウスにCD274 mRNA搭載LNPを投与したところ、β細胞表面でPD-L1の発現が誘導されました。これにより膵島への免疫細胞浸潤(膵島炎)が緩和され、糖尿病の発症率が大幅に低下(約80〜90%が未発症を維持)しました。
  2. ヒトβ細胞での導入確認: ヒトβ細胞株(EndoC-BH1)および提供されたヒト膵島細胞においても、高効率なmRNA導入とPD-L1タンパク質の発現が確認されました。
  3. ヒト膵島移植モデルでの検証: 免疫不全NOD/SCIDマウスの腎被膜下にヒト膵島を移植したin vivoモデルにおいても、LNP投与によって移植ヒトβ細胞へのPD-L1 mRNA配送と表現型誘導に成功しました。

本研究で構築されたLNPプラットフォームは、β細胞を標的とした遺伝子・RNA治療の基盤となるものであり、1型糖尿病をはじめとする内分泌・代謝疾患における新たな精密医療(プレシジョン・メディシン)の実現に向けた大きな一歩となります。

https://www.cell.com/cell-reports-medicine/fulltext/S2666-3791(26)00051-0

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