視界が徐々に失われていく病、網膜色素変性症。現在、根本的な治療法がないこの難病に、新たな光をもたらす画期的な研究成果が発表されました。遺伝子の「読み取りエラー」を分子レベルで直接修正し、病気の原因となるタンパク質の不足を補うという革新的なアプローチです。
遺伝子の読み取りエラーを修正する新たなアプローチ
網膜色素変性症(RP: Retinitis Pigmentosa)は、徐々に視力が失われ、夜盲や視野狭窄を経て、最終的には完全な失明に至ることもある進行性の遺伝性眼疾患です 。今回、ダビド・スタニェク(David Staněk)博士らを中心とする研究チームが、学術誌Molecular Therapyに画期的な研究論文「Targeted antisense oligonucleotide therapy rescues PRPF31 expression in retinitis pigmentosa caused by a splicing mutation(スプライシング変異に起因する網膜色素変性症において、標的アンチセンスオリゴヌクレオチド治療がPRPF31の発現を回復させる)」を発表しました 。
PRPF31遺伝子の新たな変異と発現低下のメカニズム
スプライシング因子(遺伝子からmRNAを作る過程で情報を正確に切り貼りする役割を持つ分子)の変異は、常染色体顕性(優性)RPの2番目に一般的な原因とされており、その中でもPRPF31遺伝子の変異が最も多く見られます 。スタニェク博士と筆頭著者のポウラミ・バニク(Poulami Banik)博士らの研究チームは、RP患者の家系からPRPF31遺伝子に新たに見つかったイントロン変異(c.1074-11C>G)を詳細に解析しました 。
研究により、以下の事実が明らかになりました。
- この変異は、遺伝子情報が読み取られる際に新たなスプライシング部位(クリプティックスプライスサイト)を作り出し、異常な転写産物を生み出します 。
- この異常な転写産物から作られる病原性タンパク質は非常に不安定であり、患者由来の人工多能性幹細胞(iPSC: Induced Pluripotent Stem Cell)の中では検出されないほどすぐに分解されてしまいます 。
- 結果として、患者由来の網膜色素上皮(RPE: Retinal Pigment Epithelium)細胞において、正常な全長PRPF31タンパク質の発現量が減少していることが確認されました 。
ASO療法によるスプライシング異常の修正とタンパク質の回復
この遺伝的な「読み取りエラー」であるスプライシング欠陥を修正するため、バニク博士らは特定のRNA配列を標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO: Antisense Oligonucleotide)という分子群を新たに設計しました 。
- ミニ遺伝子レポーターシステムを用いた実験により、PRPF31のスプライシングを正常に修正できる有望なASO候補(ASO 10)が特定されました 。
- 特定されたASOを用いた治療は、患者由来のiPSCおよびRPE細胞において、正常なPRPF31タンパク質の発現量を高めることが実証されました 。
今回の成果は、同じ変異や類似のスプライシング欠陥を抱える網膜色素変性症の患者に対し、ASOを用いたアプローチがPRPF31の発現を回復させるための強力で有望な治療戦略になり得ることを強く裏付けています 。
https://www.cell.com/molecular-therapy-family/molecular-therapy/fulltext/S1525-0016(26)00478-8