CAR-T細胞療法は血液がん治療に革命をもたらしましたが、患者自身の細胞を採取・改変・培養する現在の方法は、時間もコストもかかり、細胞の状態にも個人差があるという課題を抱えています。この課題を解決する鍵として近年注目されているのが、iPS細胞(induced pluripotent stem cell)から必要な免疫細胞を無限に作り出す"オフ・ザ・シェルフ"型のアプローチです。米ボストン大学の研究チームが、iPS細胞から機能的なCD4+T細胞を効率よく生み出す、驚くほどシンプルな新手法を開発しました。

この研究成果は、2026年8月27日に「Stem Cell Reports」誌にオープンアクセスで掲載されました。論文タイトルは「Generation of Effector CD4+ T Cells from Human iPSC(ヒトiPS細胞からのエフェクターCD4+T細胞の作製)」です。

CAR-T細胞療法をはじめとするT細胞を用いた免疫療法では、免疫の司令塔として働くCD4+T細胞と、実際に標的を攻撃するCD8+T細胞のバランスが治療効果を左右することが知られています。しかし、iPS細胞から試験管内でT細胞を分化誘導すると、CD4とCD8の両方を発現する"ダブルポジティブ(DP: double-positive)"細胞の段階で分化が停滞しやすく、機能的なCD4+T細胞だけを効率的に取り出すことは技術的に難しい課題でした。

研究チームは、ジュリアン・アミロー(Julian Amirault)氏とグスタボ・モストスラフスキー(Gustavo Mostoslavsky)博士らを中心に、このDP細胞に対してT細胞受容体(TCR: T-cell receptor)刺激を与える際に、細胞の運命決定に関わる「Notch」シグナルのリガンドをあえて取り除くという操作を行いました。通常、Notchシグナルは細胞分化の方向を決める重要な因子として働きますが、これを外した状態でTCR刺激を加えることで、DP細胞がCD4+系列への分化の"入り口"に到達しやすくなることを発見しました。

こうして得られたiPS細胞由来のCD4+T細胞(iCD4+T細胞)は、生体から採取した一次CD4+T細胞と似た性質を示しました。高次元フローサイトメトリー技術CyTOF(cytometry by time-of-flight)と、1細胞ごとの遺伝子発現を解析するシングルセルRNAシーケンシング(scRNA-seq: single-cell RNA sequencing)を組み合わせた解析により、このiCD4+T細胞が刺激に応じて古典的なTh1型サイトカインに加え、IL-4・IL-8・IL-13といった多様なサイトカインを産生する能力を持つこと、そして遺伝子発現パターンもヒトの末梢血由来CD4+T細胞と類似していることが確認されました。

このプロトコルは、既存のiPS細胞株から出発して、複雑な遺伝子操作を必要とせずに機能的なCD4+T細胞を再現性高く量産できる点が特長です。研究チームは、この技術が既製品(オフ・ザ・シェルフ)型CAR-T細胞療法の細胞供給源としてだけでなく、制御性T細胞(Treg)を利用したCAR-Treg療法など、慢性炎症性疾患や自己免疫疾患への応用にもつながる可能性があるとしています。

研究チームは今後、より詳細な機能評価や、実際の治療応用に向けたさらなる最適化を進めていくとしています。

[News release] [Stem Cell Reports article]

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