O157などの大腸菌による食中毒は、特に子どもたちにとって重篤な症状を引き起こす恐れのある恐ろしい感染症です 。しかし驚くべきことに、一般的な抗生物質による治療が、かえって有害な毒素の産生を促してしまう可能性があることをご存知でしょうか 。
画期的な新治療法の開発
マシュー・ガルティエ(Matthieu Galtier)博士、アントニナ・クラウチック(Antonina Krawczyk)博士、ヘスス・フェルナンデス=ロドリゲス(Jesus Fernandez-Rodriguez)博士らの研究チームは、新たな治療戦略に関する画期的な論文を発表しました 。本研究は、論文「Treatment of Shiga toxin-producing E. coli infection by CRISPR-Cas-targeted cleavage of the Shiga toxin gene in animal models(動物モデルにおけるCRISPR-Cas標的切断による志賀毒素産生性大腸菌感染症の治療)」として発表されています 。
STEC感染症と従来の治療の課題
- 大腸菌は一般的な腸内常在菌ですが、日和見病原体として重篤な腸内および腸管外感染症を引き起こすことがあります 。
- その中でも、志賀毒素産生性大腸菌(STEC: Shiga toxin-producing E. coli)の感染は、特にお子様において重篤な疾患を引き起こす公衆衛生上の大きな脅威です 。
- 感染すると血便を伴う下痢を引き起こし、長期的合併症を伴う生命を脅かす溶血性尿毒症症候群へと進行する恐れがあります 。
- STEC感染症において抗生物質の使用は禁忌とされています 。
- その理由は、抗生物質が志賀毒素(stx)遺伝子を持つプロファージを誘導し、かえって毒素の産生を引き起こす可能性があるためです 。
- このような背景から、抗生物質に代わる他の治療戦略が緊急に求められていました 。
CRISPR-Cas技術を応用した新たなアプローチ
- ガルティエ博士らの研究チームは、Cas12ヌクレアーゼを用いたCRISPRベースの新しい抗菌戦略を開発しました 。
- この技術により、臨床分離されたO157 STECを選択的に排除し、stx変異体の99%以上を切断することで、毒素の放出を防ぐことに成功しています 。
- さらに、標的への確実な送達を可能にするため、バクテリオファージ由来のキャプシドを改変しました 。
- これにより、非複製DNAペイロードを大腸菌O157に特異的に伝達し、その拡散を防ぐシステムを構築しました 。
前臨床モデルでの成果と今後の展望
- 開発された治療薬候補である「EB003」は、ウサギの疾患モデルなど2つの前臨床モデルにおいてテストされました 。
- その結果、細菌の定着を減らし、症状を緩和させることが示されました 。
- これらのデータは、STECに対するファージ由来の人工粒子の高い可能性を浮き彫りにしています 。
- また、抗生物質が効かない病原菌に対する精密治療薬として、EB003のさらなる臨床開発を強く後押しする結果となっています
