世界的なワクチン接種率の低下を背景に、近年再び猛威を振るっている感染症のひとつが麻疹です。空気感染するため感染拡大を防ぐのが難しく、ワクチン未接種者にとっては深刻な脅威となっています。そんな中、米国の研究チームが、口から飲むだけで麻疹様ウイルスの空気感染を完全に防いだとする、新しい抗ウイルス薬候補の動物実験結果を報告しました。

研究の概要

本研究は、Nature Microbiology誌に2026年7月24日に掲載された論文「Antiviral GHP-88310 Blocks Contact-Mediated and Airborne Transmission in a Ferret Model of Measles-Like Disease(抗ウイルス薬GHP-88310は麻疹様疾患のフェレットモデルにおいて接触感染と空気感染の両方を防止する)」に基づきます。筆頭著者はキャロリン・M・リーバー博士(Carolin M. Lieber, PhD)、責任著者はリチャード・K・プレンパー博士(Richard K. Plemper, PhD)で、いずれも米国ジョージア州立大学(Georgia State University)トランスレーショナル抗ウイルス研究センター(CTAR: Center for Translational Antiviral Research)の所属です。

麻疹ウイルスは感染力が非常に強く、空気感染・接触感染の両方で広がります。近年、ワクチンへの忌避感などを背景に接種率が低下したことで、北米では大規模な流行が再燃し、数千人規模の感染者と多数の入院、死亡例も報告されています。しかし麻疹に対してはワクチン以外に特異的な抗ウイルス薬が存在せず、対症療法に頼らざるを得ないのが現状で、ワクチンを補完する治療手段が求められていました。

主な発見

研究チームは、麻疹ウイルスと近縁で、麻疹様の疾患を引き起こすイヌジステンパーウイルス(CDV)に感染させたフェレットを用いて、直接接触感染モデルと空気感染モデルの両方を構築しました。GHP-88310を1日2回経口投与したところ、曝露前後の予防投与によって、直接接触・空気感染のいずれの経路でも感染をほぼ完全にブロックすることに成功しました。1日1回投与でも、全ての個体が生存し、抗体産生(セロコンバージョン)も確認されています。

さらに、すでに感染した個体に治療的にGHP-88310を投与した場合には、ウイルスを排出し他個体に感染させうる期間が5日間短縮されることも示されました。空気感染を介して曝露した個体への治療投与でも、臨床症状が軽減され全個体が生存した一方、対照群(未投与)では全個体が死亡しています。直接接触で曝露した個体でも同様に、症状軽減と生存率の改善が確認されました。研究チームは、経口投与のウイルスポリメラーゼ阻害薬が空気感染を完全に防いだ例はこれまでになく、「前例のない結果」だとしています。

リーバー博士は、「GHP-88310の経口投与が、私たちの麻疹フェレットモデルにおいて空気感染を完全に防いだことを見て、非常に興奮しました。ウイルスポリメラーゼ阻害薬としては前例のない発見で、この薬剤の並外れた抗ウイルス効力を示しています」と述べています。また、プレンパー博士は、「麻疹のアウトブレイクを迅速に沈静化させることは、ウイルスの制御を取り戻す上で不可欠です。予防効果に加えて、GHP-88310は治療的に用いた場合にも私たちのモデルで疾患期間を短縮しました。もしヒトでも同様の効果があれば、患者の長期隔離に伴う深刻な社会的・経済的負担を軽減し、アウトブレイク対応をさらに後押しできるかもしれません」とコメントしています。

手法の特徴

研究チームは、3〜5ヶ月齢の雌フェレットを用い、感染源動物と非感染動物を直接同居させる、または一定間隔を空けた密閉ケージ同士を空気だけが行き来する管で接続するという2種類の伝播モデルを構築しました。GHP-88310(またはビヒクル対照)を経口投与し、血液・鼻腔洗浄液・末梢血単核球中のウイルス量、血球数、中和抗体価などを経時的に測定することで、予防効果と治療効果の両方を評価しています。

意義・今後の展望

本研究は、ワクチンだけに頼らない麻疹対策の可能性を示すものです。研究チームは、GHP-88310が曝露後予防やアウトブレイク時のリング・ワクチネーション(発症者の周囲を選択的にワクチン接種する戦略)を補完する手段となりうるとしています。ヒトでも同様の効果が確認されれば、ワクチン未接種者への曝露後対応や、隔離期間短縮による社会的負担の軽減にもつながる可能性があり、今後の臨床試験の進展が注目されます。

[Nature Microbiology誌] [Georgia State Universityニュースリリース]

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