私たちの体と同じように、野生動物の体内にも無数の微生物が暮らしています。ところが、化学汚染や開発、人との接触が増えるいま、その「共生パートナー」の顔ぶれが静かに入れ替わりつつあるかもしれません。プリンストン大学(Princeton University)の研究チームが、この問題の「まだ解けていない謎」を整理した論考を、PLOS Biology誌に発表しました。

研究の概要

今回の論文「How do anthropogenic changes affect wildlife microbiomes?(人為的な変化は野生動物のマイクロバイオームにどのような影響を与えるのか?)」は、新たな実験データを示す研究ではなく、既存の文献を整理して課題を提示する“Unsolved Mystery”形式の論考です。筆頭・責任著者のキャサリン・M・ラガーストロム(Katherine M. Lagerstrom)氏と、責任著者のアンドリュー・H・ムーラー(Andrew H. Moeller)博士らは、人間活動が野生動物の微生物叢(マイクロバイオーム)に影響を与える経路を、大きく3つに分けて説明しています。

3つの影響経路

  • 汚染:重金属、農薬、抗生物質、医薬品などの化学物質が、動物と共進化してきた共生微生物の喪失を招いたり、薬剤耐性(AMR)や耐性遺伝子を持つ菌の選択につながったりする可能性があります。
  • 生息地の改変:土地利用の変化や気候変動は、餌の内容、個体群構造、移動のしやすさ、ストレス応答などを変えます。その結果、微生物の多様性は種や状況によって増える場合も減る場合もあり、影響は一様ではありません。
  • 宿主どうしの接触ネットワークの変化:人と野生動物の接触、外来種の侵入、家畜が野生化する現象などにより、種をまたいだ微生物の伝播が起こりやすくなり、人間に近い微生物群集へ傾く例も報告されています。

核心にある「謎」

著者らが最大の課題として挙げるのは、似たような人為的ストレスを受けても、動物種・環境・時間スケールによって微生物の反応が異なるのはなぜか、という点です。変化が一時的なのか持続的なのか、有害なのか適応的なのか、そして宿主の健康や感染症リスクにどこまで影響するのかも、まだ十分に分かっていません。環境による選別、微生物の拡散の制限、宿主の生理、種間伝播といった仕組みを切り分ける研究が今後必要だとしています。

この研究の意義

微生物叢の乱れは、野生動物の健康や適応度、さらには人獣共通感染症のリスクや生物多様性の保全とも結びつく可能性があります。本論考は、個別の事例研究をつなぐ枠組みを示すことで、今後の研究の道筋を描いたものといえます。なお、本論文は新規の数値データや実験結果を報告するものではなく、文献に基づく概念的な整理である点にご留意ください。

論文情報:「How do anthropogenic changes affect wildlife microbiomes?」PLOS Biology(2026年8月26日オンライン公開、オープンアクセス、CC BY 4.0)、DOI: 10.1371/journal.pbio.3003939。研究チームはプリンストン大学生態学・進化生物学部門に所属しています。

カテゴリ:微生物/ウイルス研究
関連する研究ツール:遺伝子解析、バイオインフォマティクス、DNAサンプル調製

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