てんかんの発作は予測が難しく、患者さんは常に不安を抱えながら生活しています。もし、脳波(EEG)のデータを見ながらAIと会話しながら、自分の発作の状態をリアルタイムで把握できたら――。米ペンシルベニア大学(University of Pennsylvania)の研究チームが、まさにそんな未来を一歩前進させる研究成果を発表しました。大規模言語モデル(LLM)を搭載したAIチャットが、入院患者の脳波データを使ってリアルタイムに発作管理をサポートする仕組みを検証したのです。

研究論文のタイトルは「Human–artificial intelligence collaboration for comanaging epilepsy in real time(てんかんのリアルタイム共同管理におけるヒトとAIの協働)」で、Nature Medicine誌に2026年10月13日付で掲載されました。

患者とAIが1,300件超のメッセージを交換

研究チームは、頭皮脳波(scalp EEG)を装着した11人、頭蓋内脳波(intracranial EEG)を装着した2人、合計13人の入院患者を対象に、スマートフォンアプリ経由で患者とAIが会話できるプラットフォームを検証しました。患者とAIの間では1,300件を超えるメッセージが交換され、データに関する質問に対するAIの応答精度は92.1%に達しました。さらに注目すべきは、患者からのフィードバックを使ってAIが発作検出のアルゴリズムを微調整したところ、誤報(偽陽性)が中央値で77.8〜80.9%減少し、検出精度を示すF1スコアが115.4〜158.4%向上したことです。臨床医が介入した場合は、誤報が82.6%減少し、F1スコアは271.5%向上しました。システムの使いやすさを評価するアンケート(SUS)でも平均83点という高い評価を獲得しています。

3層構造のプラットフォームが支える対話型モニタリング

このプラットフォームは3つの層で構成されています。病院のネットワークからリアルタイムで脳波データを取り出す仕組み、発作の確率や睡眠段階、棘波(スパイク)などの特徴をAIで解析するクラウド環境、そして患者がスマートフォンで利用できる対話型AIチャットです。AIチャットには「General chat」と「データ照会」という2つのモードがあり、日常会話や症状の記録だけでなく、脳波データをもとにした質問にも答えられるよう設計されています。安全性を確保するため、疑わしい内容のメッセージは自動的に人間の医療者によるレビューに回される仕組みも組み込まれています。

"人とAIの協働"が開く患者中心の医療機器

従来のてんかん管理デバイスは、記録したデータを後から医師がまとめて確認する「非同期型」が主流で、患者がリアルタイムで自分の状態を把握したり、デバイス側の学習に参加したりすることはできませんでした。今回の研究は、患者自身のフィードバックをその場でAIに反映させることで、誤報を減らしながら検出精度を高める「人とAIの協働」という新しい形を示しました。この仕組みはてんかんに限らず、ほかの慢性疾患の患者モニタリングにも応用できる可能性があり、患者中心の医療機器開発における重要な一歩と言えます。

本研究はペンシルベニア大学ペレルマン医学部の神経工学・治療センター(Center for Neuroengineering and Therapeutics)によって行われました。研究を主導したのはザック・ゴールドブラム博士(Zack Goldblum博士)で、同センターのブライアン・リット博士(Brian Litt博士)らが研究に携わっています。

[Nature Medicine誌掲載論文]

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