骨髄は血液細胞をつくるだけでなく、脂肪組織を蓄える器官でもあります。腸から分泌される胆汁酸がこの骨髄環境に影響を及ぼす可能性が指摘されてきましたが、その仕組みは長らく謎に包まれていました。今回、胆汁酸受容体TGR5が骨髄脂肪組織と造血ニッチを性特異的に調節していることを示す研究が報告されました。

研究の概要

本研究は、eLife誌にreviewed preprintとして掲載された論文「The Bile Acid Receptor TGR5 Is a Modulator of Bone Marrow Adipose Tissue and the Hematopoietic Niche(胆汁酸受容体TGR5は骨髄脂肪組織と造血ニッチの制御因子である)」に基づきます。共同筆頭著者はアレハンドロ・アロンソ=カジェハ氏(Alejandro Alonso-Calleja)、アレッシア・ペリーノ氏(Alessia Perino)、フレデリカ・シール氏(Frédérica Schyrr)、責任著者はオライア・ナベイラス博士(Olaia Naveiras, PhD, ローザンヌ大学)およびクリスティナ・スホーンヤンス博士(Kristina Schoonjans, PhD, スイス連邦工科大学ローザンヌ校/EPFL)です。骨髄(BM: Bone Marrow)は、造血および骨髄脂肪組織(BMAT: Bone Marrow Adipose Tissue)を介したニッチ環境によって厳密に制御されていますが、胆汁酸(BA: Bile Acid)受容体TGR5が骨髄でどのような役割を果たすのかはこれまで不明でした。

主な発見

研究チームは、TGR5が造血前駆細胞(HSPC: Hematopoietic Stem/Progenitor Cell)や骨髄間質前駆細胞に発現していることを明らかにしました。Tgr5遺伝子の欠損は定常状態の造血そのものには大きな影響を与えませんでしたが、若い雄マウスでは骨髄脂肪組織が減少し、脂肪細胞前駆細胞(APC: Adipocyte Progenitor Cell)が増加する一方、雌マウスではこうした変化は見られませんでした。また、Tgr5欠損マウスをレシピエントとした骨髄移植実験では造血の回復が促進されることが分かり、これは骨髄ニッチ側の変化によるものであることが確認されています。肥満や加齢の条件下でも、雄マウスにおいて骨髄系・リンパ系前駆細胞のバランスが正常に近づく傾向が見られました。

手法の特徴

研究チームはTGR5:GFPレポーターマウスおよび生殖細胞系列のTgr5欠損(ノックアウト)マウス(雄・雌、若齢・高齢、標準食・高脂肪食)を用いました。フローサイトメトリーによるHSPC・GFP発現解析、コロニー形成アッセイ、全血球計算、骨髄移植実験、組織学的なBMAT解析を組み合わせ、性差・加齢・食事条件による違いを比較しています。TGR5:GFPマウスではLKS集団のGFP陽性細胞頻度に有意差が確認され(野生型9匹 vs TGR5:GFP 11匹)、Tgr5欠損雄マウスでは後肢あたりのCD45陽性細胞数が平均で約20%増加していました。

意義・今後の展望

本研究は、TGR5が性特異的に骨髄脂肪組織と造血支持ニッチを調節する因子であることを初めて示すものです。TGR5シグナルを標的とした骨髄微小環境の薬理的制御は、造血幹細胞移植後の回復促進や、肥満・加齢に伴う造血機能の異常への対応など、新たな治療戦略につながる可能性を秘めています。

[eLife誌]

この記事の続きは会員限定です