もし腸内細菌を"鍛えて"強くすることができたら、私たち自身も長生きできるかもしれません。そんな夢のような話を、小さなショウジョウバエを使った実験が現実に近づけました。腸内マイクロバイオームを人為的に進化させることで、宿主の健康寿命が延びることが示されたのです。

酸化ストレスに強いマイクロバイオームを"育てる"

今回、米国コロンビア大学アービング医療センター(Columbia University Irving Medical Center)遺伝学・発生学部門のマット・ウルゲライト氏(Matt Ulgherait)と、同センターのミミ・シラス=ヒザ博士(Mimi Shirasu-Hiza, PhD)を責任著者とする研究チームは、論文「Directed evolution of the Drosophila microbiome improves intestinal health and extends lifespan(ショウジョウバエ腸内マイクロバイオームの人為進化が腸の健康を改善し寿命を延ばす)」をプレプリントサーバーbioRxivに発表しました。

研究チームは、ショウジョウバエ(Drosophila)の腸内マイクロバイオームを宿主の外(ex vivo)で継代培養し、酸化ストレス物質であるパラコート(paraquat)存在下で選抜を繰り返す「人為進化(directed evolution)」の手法を用いました。この過程で、パラコートに対する耐性を獲得した「PQRマイクロバイオーム」を作り出すことに成功しました。

腸の健康改善と寿命延長を確認

このPQRマイクロバイオームをハエに移植したところ、宿主のパラコート耐性が向上しただけでなく、加齢に伴う腸管の病理変化が抑えられ、寿命が延びることが確認されました。16SリボソームRNA(16S rRNA)解析や培養法により、このマイクロバイオームの主要な菌種は乳酸菌の一種であるLactiplantibacillus plantarumであることが特定されました。

鍵を握るのは短鎖脂肪酸「酢酸」

さらにゲノム解析により、寿命延長効果を示した菌株には、酢酸(acetate)の産生を高める変異が特異的に生じていることが判明しました。実際に、この酢酸をハエに直接与えるだけで、マイクロバイオーム移植と同様の寿命延長効果が再現されました。これは、腸内細菌が作り出す代謝産物そのものが、宿主の老化を左右する重要な要因であることを示しています。

この研究は、宿主の外でマイクロバイオームを人為的に進化させ、有益な性質を持つ菌叢を作り出して移植できることを示した、いわば概念実証(proof-of-principle)となる成果です。腸内細菌の酸化ストレス耐性を高めることが、新しい老化対策・腸管の健康維持戦略につながる可能性を示しており、将来的な微生物療法や老化介入への応用が期待されます。

https://www.biorxiv.org/content/10.64898/2026.08.04.742805v1

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