普段私たちが口にするパンやうどん。その食感や加工のしやすさを左右する重要な要素が、小麦に含まれる「デンプン粒」のサイズです。もし、このデンプン粒の大きさを劇的に変えることができたら、食品産業や工業分野に新たな可能性をもたらすかもしれません。

ローズ・マクネリー(Rose McNelly)博士、ララ・エッシュ(Lara Esch)博士、デビッド・スン(David Seung)博士らの研究チームは、この画期的な研究論文「「Targeting granule initiation and amyloplast structure to create giant starch granules in wheat(小麦の巨大デンプン粒を作り出すための粒開始とアミロプラスト構造の標的化)」」を、Science Advances誌に発表しました 。

デンプン成長を阻む2つの「壁」

デンプン粒のサイズは、デンプンの機能や消化性、加工品質に大きな影響を与えますが、その遺伝的な制御メカニズムはこれまで十分に解明されていませんでした 。小麦のデンプンには、大きく平たいA型デンプン粒と、小さく丸いB型デンプン粒の2種類が存在します 。

研究チームは、デンプン粒が大きく成長するためには「物理的なスペース」と「材料(基質)の奪い合い」という2つの要因が制限となっていることを突き止めました 。限られた空間に多数のデンプン粒が密集している状態では、一つひとつの粒が大きく成長することはできません。

 

「巨大デンプン粒」を生み出す遺伝子変異

A型デンプン粒のサイズを飛躍的に大きくするため、研究チームは2つの遺伝子に同時にアプローチしました。

  • スペースの拡大: 1つ目の標的は、プラスチド分裂の構成要素である「PARC6(acronym: PARALOG OF ARC 6)」遺伝子です 。この遺伝子を変異させることで、デンプンを合成する器官(アミロプラスト)のサイズが拡大し、デンプン粒が成長するためのスペースが大幅に広がりました 。
  • 材料の独占: 2つ目の標的は、「BGC1(acronym: B-GRANULE CONTENT 1)」遺伝子です 。この変異により、新しいデンプン粒の形成(開始)が減少するため、成長中のデンプン粒同士による材料の奪い合いを抑えることができました 。

これら2つの変異を組み合わせた「parc6 bgc1」二重変異体を作成した結果、なんと通常のA型デンプン粒の2倍以上の大きさを持つ「巨大デンプン粒」を作り出すことに成功しました 。走査型電子顕微鏡(SEM: Scanning electron microscopy)を用いた観察では、これらの巨大な粒は滑らかな表面ではなく、しわや隆起などの特徴的な形態を持つことも確認されました 。

 

変化する機能性と未来への応用

さらに、デンプンの物理化学的な特性を調べるため、迅速粘度測定装置(RVA: Rapid Visco Analyser)や示差走査熱量計(DSC: Differential scanning calorimeter)を用いた分析が行われました 。その結果、デンプン粒の巨大化が、粘度や糊化(こか)温度といった機能的特性に明確な変化を与えることが実証されました 。

特筆すべきは、これらの変異を持つ小麦が、温室だけでなく実際の野外環境(フィールド)で栽培された場合でも、一株あたりの収量に悪影響を与えることなく安定して巨大デンプン粒を生産できた点です 。

本研究は、空間と基質という2つの制約を同時に標的とすることで、これまで自然界では見られなかったような巨大な穀物デンプンを作り出した画期的な成果です 。デンプン粒の大型化は製粉効率の向上に直結するほか 、食品の食感改善、さらには製紙や生分解性プラスチックなどの工業用途まで、幅広い分野での革新的な応用が期待されています 。

https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.aeh2735

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