同じ抗生物質を浴びせても、細菌がたどる耐性獲得のルートは同じとは限りません。インド科学教育研究大学プネ校(IISER Pune)の研究チームは、大腸菌(Escherichia coli)がもともと持っている遺伝的な「個体差」が、耐性進化の道筋そのものを変えてしまうことを、PLOS Biology誌で報告しました。論文「Polymorphisms in a bacterial signalling pathway alter evolutionary routes of antibiotic resistance in Escherichia coli(細菌のシグナル伝達経路の多型が大腸菌における抗生物質耐性の進化経路を変える)」では、筆頭著者のチェトナ・イェルプレ(Chetna Yelpure)氏と責任著者のニシャド・マタンゲ(Nishad Matange)博士らが、二成分制御系のPhoQ-PhoPシグナル経路に着目しました。

主な発見

  • 大腸菌のPhoQ-PhoP経路に見られる自然多型が、抗菌薬トリメトプリム(TMP)に対する耐性進化の経路と「進化しやすさ(evolvability)」を変えることが示されました。
  • その背景には、標的酵素DHFRの過剰発現やRpoS制御遺伝子群の活性化といった適応的変異との間の相互作用(エピスタシス)があります。
  • あるDHFRバリアントの背景では、新規のPhoQ変異が急速に集団に固定されました。この変異は高い耐性をもたらす一方で、増殖上の大きなコスト(適応度コスト)を伴うことも分かりました。

手法のポイント

研究チームは、自然多型の解析、TMP存在下での進化実験、RNA-seqによるトランスクリプトーム比較を組み合わせ、耐性の強さと適応度コストを切り分けて評価しています。

意義

この結果は、すでに集団内に存在する多型が、抗生物質への適応における変異の「地形」を書き換えることを示しています。PhoQ-PhoP-DHFR経路は、シグナル伝達経路の進化を調べるモデルとして位置づけられ、耐性進化を予測・抑制する戦略を考えるうえでも手がかりになると期待されます。

論文情報:「Polymorphisms in a bacterial signalling pathway alter evolutionary routes of antibiotic resistance in Escherichia coli」PLOS Biology(2026年8月26日オンライン公開)、DOI: 10.1371/journal.pbio.3003977。

カテゴリ:微生物/ウイルス研究
関連する研究ツール:遺伝子解析、バイオアッセイ、バイオインフォマティクス

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