転写プロファイルに基づく選択的な細胞排除技術の登場

Nature誌に掲載された研究論文「「CRISPR-Cas12a2によるRNAトリガー型細胞死 (RNA-triggered cell killing with CRISPR-Cas12a2)」」では、特定の転写産物(RNA)を発現している細胞をプログラム通りに排除できることが示されました。バクテリアなどの原核生物では、CRISPRヌクレアーゼを用いて特定のRNAを標的とした細胞排除が可能でした。しかし、真核生物において同じ手法を用いることはこれまで非常に困難でした。ポール・ショルツ (Paul Scholz) ら研究チームは、最近発見されたV型CRISPRヌクレアーゼであるCas12a2が、RNAをトリガーとして無差別に二本鎖DNA (dsDNA: double-stranded DNA) を切断する性質を持つことを明らかにしました。

酵母およびヒト細胞での実証

ショルツらはまず、酵母細胞を用いてCas12a2の活性をテストしました。核移行シグナル (NLS: nuclear localization signal) を融合させたCas12a2と、ガイドRNA (gRNA: guide RNA) を発現させることで、局所的なDNA修復の機会があるにもかかわらず、標的依存的に酵母細胞を効率的に排除することが示されました。

次に、非相同末端結合 (NHEJ: non-homologous end joining) や相同組換え修復 (HDR: homology-directed repair) によってDNA修復が可能なヒト細胞において検証を行いました。緑色蛍光タンパク質 (GFP: green fluorescent protein) を高発現するヒトHeLa細胞に対して、GFPの転写産物を標的とするリボ核タンパク質 (RNP: ribonucleoprotein) 複合体を導入しました。結果として、標的となった細胞は増殖できず、経時的に顕著に減少しました。さらに、脂質ナノ粒子 (LNP: lipid nanoparticle) を用いてCas12a2をmRNAとgRNAとして共送達した場合でも、標的依存的な細胞減少を引き起こすことが確認されています。

 

広範なDNA切断とアポトーシスの誘導

RNAによってトリガーされたCas12a2が細胞死を引き起こすメカニズムを調べるため、細胞内のDNAダメージを定量しました。結果として、標的RNAが存在する場合にのみ、抗がん剤の投与と同レベルの広範なdsDNAの切断が引き起こされることが判明しました。この大規模なDNAダメージにより、細胞は細胞周期の停止とアポトーシスへと導かれます。さらに、プロトスペーサー隣接配列 (PFS: protospacer-flanking sequence) やミスマッチの許容性を厳密に検証した結果、意図しないオフターゲット活性はヒト細胞内ではほとんど見られませんでした。

 

3つの革新的な応用シナリオ

本研究では、この技術を活用して、望ましくない細胞のみを選択的に排除する3つのシナリオを実証しています。

  • ウイルス感染細胞の排除: ヒトパピローマウイルス (HPV: human papillomavirus) の高リスク変異体を保持する細胞を標的とした実験では、非感染細胞を傷つけることなく、HPV保持細胞のみを選択的に排除しました。生体内実験においても、LNPを用いて腫瘍の成長を有意に抑制しました。
  • 遺伝子編集細胞の濃縮: 挿入・欠失 (indels: insertions or deletions) などの遺伝子編集が行われなかった細胞のRNAを標的とすることで、編集に成功した細胞集団を選択的に生き残らせ、濃縮することに成功しました。
  • がん細胞の選択的排除: 発がん性の点突然変異であるKRAS G12C変異を持つ転写産物を標的とし、正常な野生型KRASを持つ細胞には影響を与えずに、変異を持つがん細胞だけを排除しました。

これらの発見は、CRISPRツールボックスをさらに拡張し、転写プロファイルに基づいて真核細胞を選択的に排除する新しい道を切り開くものです。将来的には、基礎研究、医療、バイオテクノロジー分野での幅広い応用が期待されています。

https://www.nature.com/articles/s41586-026-10466-y

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