都市の拡大と急速な都市化に伴い、私たちのすぐ身近に潜む野生動物との距離感は大きく変化しています。特に、人間社会に巧みに適応して暮らすネズミなどの齧歯(げっし)類は、時に予期せぬ感染症をもたらすリスクを秘めています。もし、暮らす都市の気候や環境の違いによって、彼らが保有するウイルスの種類や危険度がガラリと変わるとしたら……少し気になりませんか?

今回ご紹介するのは、中国の巨大都市に生息するネズミたちの「ウイルス相(バイローム)」を網羅的に解析し、都市化と動物由来感染症リスクの意外な関係性を解き明かした最新の研究成果です。

大都市のネズミが抱えるウイルスの実態に迫る

メタゲノム解析(metagenomic sequencing)技術の進化により、野生動物が持つウイルスの全貌や、ヒトに感染し得る潜在的な病原体の特定が大きく進展してきました。しかし、これまでの研究の多くは特定の地域に限られており、都市化の度合いや環境勾配に応じたウイルス相(virome)の構成の違いを体系的に比較した例はほとんどありませんでした。

この課題に挑んだのが、ウーハン・シャン(Zhou-fu Xiang)博士、フイ・ワン(Hui Wang)博士、ファン・ヤン(Fan Yang)博士、ウェイ・ホウ(Wei Hou)博士、リャンジュン・チェン(Liang-jun Chen)博士らを中心とする共同研究グループです。研究チームは、気候や地域特性が異なる中国の代表的な2大メガシティ、武漢(ウーハン)と深圳(シンセン)において、大規模なネズミの調査を実施しました。

本研究の成果は、学術誌『Communications Biology』に「Metatranscriptomics reveals urbanization-driven divergence in rodent viromes and zoonotic risks in Chinese megacities(メタトランスクリプトミクス解析により明らかになった中国のメガシティにおける齧歯類ウイルス相の都市化由来の分岐と人獣共通感染症リスク)」 というタイトルで発表されました。

 

35種の脊椎動物関連ウイルスを発見、種を超えた感染リスクも

研究チームは、人間生活と頻繁に交錯する齧歯類4種、計1,072匹を採取し、直腸メタトランスクリプトミクス(metatranscriptomics: 転写産物網羅的解析)を用いて直腸内のウイルス動態と人獣共通感染症(zoonosis)のリスクを比較分析しました。

解析の結果、以下のような重要な知見が得られました:

  • 新たなウイルス種の発見:計35種の脊椎動物関連ウイルスが特定され、そのうちノロウイルス(Norovirus)やオルトピコビルナウイルス(Orthopicobirnavirus)の仲間を含む9種が潜在的な新種であることが判明しました。
  • 人獣共通感染症リスクのあるウイルス:ソウルウイルス(Orthohantavirus seoulense)やヒトコロナウイルスOC43(HCoV-OC43)など、ヒトに感染し得る3種のウイルスが確認されました。
  • 異種間伝播の兆候:これまでネズミからの報告がなかったハリネズミソウルオルトハンタウイルス(Erinaceus hedgehog Seoul orthohantavirus)やイヌアストロウイルス(Canine astrovirus)が検出され、目(order)を超えたウイルス伝播リスクの存在が浮き彫りになりました。

 

都市間のウイルス相の違いを生む要因とは?

さらに研究では、ハイリスクとされる22種のウイルスにおいて、武漢と深圳の間で検出パターンに大きな違いが見られることが明らかになりました。

都市間でネズミの直腸ウイルス相が拡散・分岐する背景には、気象変数が大きく関わ与しており、気象要因単独でウイルス群集構造の変異の5.0%を説明できることが統計的に示されました。地理的な距離や気候環境の違いが、齧歯類媒介性ウイルスの分布や伝播に決定的な影響を与えていることが裏付けられた形です。

高密度な都市環境において、将来的な動物由来感染症のパンデミックを未然に防ぐ(アウトブレイクを低減する)ためには、こうした地理的・気候的要因を踏まえた積極的なサーベイランス(監視体制)の構築が不可欠となります。

 https://www.nature.com/articles/s42003-026-10711-0

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