人工的に細胞を作り出し、それが自ら成長して分裂する……そんな夢のような技術が現実になろうとしています!

ミネソタ大学のケイト・アダマラ(Kate Adamala)博士とその研究チームは、完全な細胞周期を実行できる、既知の化学成分のみで構築された細胞に似たシステム「SpudCell」を開発しました。この研究の詳細は、プレプリント「「A Chemically Defined Synthetic Cell Capable of Growth and Replication(成長と複製が可能な化学的に定義された合成細胞)」」として発表されています。このようなシステムが完全な細胞周期を実証したのは、今回が初めてのことです。

SpudCellが実証したこと

  • 遺伝子制御による栄養摂取と成長: SpudCellは、細胞膜の成長に必要な脂質や、リボソーム、酵素、低分子などの栄養素を運ぶ小さな「フィーダーリポソーム」と融合することで成長します。SpudCell自身のデオキシリボ核酸(DNA: deoxyribonucleic acid)から作られたタンパク質がフィーダーの膜に結合することで融合が起こり、DNAが栄養摂取の可否、成長速度、大きさを直接コントロールします。天然の細胞は代謝によって自ら栄養を作り出しますが、それには代謝酵素をコードする何百もの遺伝子が必要です。代わりに外部から栄養を取り込むことで、SpudCellはずっと小さなゲノムで完全な細胞周期を終えることができます。
  • 細胞骨格を持たない細胞分裂: 天然の細胞は、細胞骨格と呼ばれる内部の足場を使って分裂します。機能的な細胞骨格を一から構築するには数十種類のタンパク質が連携して働く必要があるため、合成細胞研究における大きな壁となっていました。SpudCellはこれを完全に回避し、膜表面にタンパク質が密集して生じる物理的ストレスによって膜を分割させます。この表面タンパク質を多く作る細胞ほど効率よく分裂するため、ゲノムと繁殖の成功が直接結びついています。
  • 選択と競争: 融合タンパク質の生産を増やすような遺伝子改変を導入したところ、その変化を持った細胞はより速く成長し、より多くの子孫を残しました。5世代後には、速く成長する変異体が元の細胞を打ち負かしました。栄養が不足している環境下では、この優位性はさらに高まりました。これは、完全に人工的な化学システムの中で「選択と競争」が働いていることを実証しています。

 

技術アーキテクチャの解説

  • ゲノム構成: 90キロ塩基対(kbp: kilo base pairs)のゲノムは、1つの染色体ではなく、7つの独立したDNAプラスミドに分割されています。各プラスミドは特定の機能をコードしています。このモジュール型の構造により、個々の機能を独立して変更することが可能です。
  • タンパク質合成システム: 無細胞タンパク質合成系(PURE: Protein synthesis Using Recombinant Elements)は、バクテリアから精製された酵素(リボソームを含む)を利用してDNAを読み取り、タンパク質を作ります。粗製バクテリア細胞抽出液を使った従来のアプローチとは異なり、PUREではすべての構成要素とその濃度が判明しているため、研究者は細胞内で何が起きているかを正確に追跡できます。
  • 化学組成: この合成細胞は形成時に明確な化学組成を持ち、すべての成分の濃度が判明しています。細胞は、天然の細胞膜を構成するのと同じ脂肪分子である脂質分子でできた中空の球体「リポソーム」です。各リポソームの内部には、DNAゲノムとPUREタンパク質発現システムが入っています。SpudCellが機能するために必要なすべてのタンパク質は、自身のゲノムから細胞内部で作られます。
  • 栄養摂取の仕組み: SpudCellは、「α-ヘモリジン」と呼ばれるタンパク質を使ってフィーダーリポソームと融合します。SpudCellがDNAからこのタンパク質を作ると、タンパク質は自ら膜に挿入され、膜を貫通します。タンパク質に付着した化学タグが膜表面から突き出し、フィーダーリポソームにある対応するフックに結合することで融合が引き起こされます。

 

残された課題と次のステップ

SpudCellは、生命のコアとなるプロセスの多くが、完全に特定され、個別に精製された成分から再構築できることを実証しています。まだまだ多くの課題が残されていますが、ナノ小胞をベースとした栄養摂取のアプローチは、今後の研究を積み上げていくための基盤を提供してくれます。解決すべき残りの課題のいくつかは以下の通りです:

  • 遺伝子情報からのリボソーム構築: 現在、SpudCellは大腸菌(E. coli: Escherichia coli)のリボソームを使用しています。リボソームを作り直す能力がないため、SpudCellの機構が劣化するまでの5〜10世代しか稼働できません。リボソームを一から構築するには、数十種類のタンパク質とリボ核酸(RNA: ribonucleic acid)分子を合成し、それらを正しい順番で組み立てる必要があります。
  • ゲノム分配の改善: 5世代後には、約30%の娘細胞に課題が見られます。
  • 代謝経路: より単純な出発物質から構成成分を合成できる経路が必要です。

https://biotic.org/research/spudcell/

https://www.biorxiv.org/content/10.64898/2026.07.01.735724v1

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