細胞の「発電所」とも呼ばれ、私たちの健康維持に欠かせないミトコンドリア。その形や機能の変化をリアルタイムで観察することは生命科学の大きな課題ですが、これまでの蛍光染色法では細胞への毒性や光褪色がネックとなっていました。もし、一切のラベル(色素)を使わずに、ありのままのミトコンドリアの「形」と「代謝状態」を同時に精度高く観察できるとしたら、細胞研究はどのように進化するのでしょうか?

ミトコンドリアの形態と代謝を同時に観察する新技術

ミトコンドリアの構造と機能の動態は、細胞の健康状態と密接に関連しています。しかし、ミトコンドリアを観察するための従来の蛍光イメージング技術は、光毒性、光褪色、ならびに染色によるアーチファクト(人工産物)といった課題に悩まされてきました。

この課題に対し、キドク・ベ(Kideog Bae)博士、ムザフェル・オズベイ(Muzaffer Özbey)博士、アレクサンダー・ホー(Alexander Ho)博士、エディタ・アクサミティエネ(Edita Aksamitiene)博士、ケビン・K・D・タン(Kevin K. D. Tan)博士、ジャネット・E・ソレルズ(Janet E. Sorrells)博士、リシヤシュリング・R・アイヤー(Rishyashring R. Iyer)博士、マーク・A・アナスタシオ(Mark A. Anastasio)博士、そしてスティーブン・A・ボパート(Stephen A. Boppart)博士らの研究チームは、標識用色素の助けを借りずに形態解析と機能解析を同時に実現するAI強化型イメージングプラットフォーム「RedoxSegNet」を提案しました。

本研究成果は、学術誌『Communications Biology』にて「Label-free segmentation of mitochondria for simultaneous morphological and metabolic studies(形態および代謝の同時研究に向けたミトコンドリアのラベルフリー領域分割)」 というタイトルで発表されました。

 

AIモデル「RedoxSegNet」の仕組みと高い精度

研究チームのアプローチでは、高解像度の二光子励起蛍光顕微鏡法(TPEF: two-photon excitation fluorescence microscopy)と独自構築した条件付き拡散モデルを組み合わせています。これにより、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(リン酸)($\text{NAD(P)H}$)の自発蛍光画像からミトコンドリアの特徴を再構成することに成功しました。

その後の後処理アルゴリズムによる領域分割(セグメンテーション)処理では、実際にミトコンドリアを染色した画像と比較して、タスク固有のパフォーマンスエラーが平均6%未満という非常に高い精度を達成しました。

訓練されたモデルは、ラベルフリー(無標識)画像からミトコンドリアの構造的特徴を効果的に抽出し、ミトコンドリア固有の光学式レドックス比(optical redox ratio)のマッピングを容易にします。この解析により、オルガネラ(細胞小器官)内およびオルガネラ間における代謝の多様性(ヘテロジェネティクス)が明確になりました。

 

ストレス下での検証と今後の展望

さらに、カルボニルシアニド-4-(トリフルオロメトキシ)フェニルヒドラゾン(FCCP: carbonyl cyanide 4-(trifluoromethoxy)phenylhydrazone)によって誘導されたミトコンドリアストレス条件化でさらなる検証を実施しました。その結果、RedoxSegNetが動的なミトコンドリアの断片化と多様な代謝応答を捉えられることが確認されました。

総じて、これらの発見は、本技術が自然な細胞環境においてミトコンドリアの形態・機能動態を調査するための、非侵襲的で信頼性の高いツールであることを立証しています。

https://www.nature.com/articles/s42003-026-10687-x

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