腸細胞がサルモネラ菌を「兵糧攻め」に!感染防御における驚きの新戦術が判明
生卵や加熱不十分な肉などから感染し、激しい下痢や発熱、腹痛を引き起こすサルモネラ菌 。米国では毎年100万人以上が発症する最も一般的な細菌性食中毒ですが 、私たちの体の中では、この病原菌を食い止めるための壮絶な「栄養の奪い合い」が繰り広げられていました 。
バーモント大学の研究チームは、腸の細胞がサルモネラ菌から生存に不可欠な栄養素を奪い取り、増殖を抑え込むという新しい防御メカニズムを発見しました 。もし病原菌に防御壁を突破されても、人間の体には頼もしい「バックアップの防衛手段」が備わっていたのです 。
腸の壁を突破されたその先で:細胞内の「兵糧攻め」
腸の表面を覆う上皮細胞は、本来、腸内細菌が血液中に侵入するのを防ぐ物理的なバリアとして機能しています 。しかし、サルモネラ菌のような有害な細菌は、このバリアを突破して腸細胞の「内部」に侵入し、そこで生き延びることができます 。
バーモント大学ロバート・ラーナー医学部の微生物学・分子遺伝学教授であるリー・ノドラー(Leigh Knodler)博士らの研究チームは、この細胞内に侵入したサルモネラ菌に対し、腸上皮細胞が驚くべき反撃に出ていることを突き止めました 。
細菌から哺乳類にいたるまで、あらゆる生命体は鉄やマンガンといった微量金属(trace metals)を必要とします 。感染が起きている間、人間の体と微生物の間では、これらの栄養素をめぐる激しい生物学的な綱引きが行われており、その結果が病気の重症度を左右することがあります 。
ノドラー博士らは、特異的金属イオン利用性蛍光センサー(fluorescent sensors of metal ion availability)という特殊なセンサーを用いて、感染中に腸内のどこで金属の制限が起きているかを追跡しました 。その結果、腸上皮細胞は特殊な輸送システム(金属トランスポーター)を駆使して、細胞内にいるサルモネラ菌の周囲から鉄やマンガンをくみ出し、文字通り「兵糧攻め」にして増殖を制限していることが明らかになったのです 。
「栄養免疫」という新たなアプローチ
本研究は、米国国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)の支援を受けて行われ、米国科学アカデミー紀要(PNAS)に論文「SLC11A2 withholds divalent metals from Salmonella in the gut epithelium(SLC11A2は腸上皮においてサルモネラから二価金属を阻止する)」として掲載されました 。
ノドラー博士は次のように述べています。
「私たちの研究は、腸上皮細胞が金属トランスポーターを使用してサルモネラ菌から鉄とマンガンを奪い、細菌の増殖を制限していることを示しています。これらのトランスポーターは、感染症やその他の人間の疾患における潜在的な創薬ターゲットであり、今回の研究はそれらが体内のどこでどのように作用しているかを理解するための基礎を築くものです」 。
研究チームは次のステップとして、腸内に数十種類も存在する他の金属トランスポーターについても調査を進める予定です 。それらも病原体の制御に寄与しているのか、そしてそれらがどのように連携して「栄養免疫(nutritional immunity)」のランドスケープを形作っているのかを解明しようとしています 。
食中毒治療の未来へ
健康な成人の多くは医療治療を受けずにサルモネラ菌から回復しますが、幼い子どもや高齢者、免疫力が低下している人の場合、感染が全身に広がって命に関わる事態になることもあります 。
今回の発見は、宿主と病原体の相互作用に新たな一面をもたらしました 。この金属輸送経路を人工的にコントロールできるようになれば、人間の体が本来持つ自然の防御力を高め、サルモネラ菌をはじめとする様々な食中毒や下痢性の疾患に対する、これまでにない画期的な治療法や革新的な診断オプションの開発につながると期待されています 。
