年齢を重ねるにつれて、私たちの肌はなぜ変化していくのでしょうか?その秘密は、肌の若さを保つ「幹細胞」がタンパク質を作り出すプロセス、「翻訳」に隠されているかもしれません。今回、生きた組織のまま細胞一つひとつの翻訳の様子をのぞき見する画期的な新技術が開発され、老化の謎に迫る新たな発見がもたらされました。

老化に伴う幹細胞の「翻訳」の変化を捉える新技術

スイスのチューリッヒ大学に所属する アタマン・センドエル博士 (Dr. Ataman Sendoel) らの研究チームは、画期的な研究論文「In vivo single-cell ribosome profiling reveals cell-type-specific translational programs during aging (生体内の単一細胞リボソームプロファイリングにより、老化過程における細胞型特異的な翻訳プログラムが明らかになる)」 を学術誌Molecular Cellにて発表しました 。

体内の組織を維持する体性幹細胞は、全体的にタンパク質の合成率が低いことが特徴です 。この低い合成率が、幹細胞としての性質(未分化状態)を維持するために重要であると考えられています 。しかし、老化が幹細胞の「翻訳(タンパク質合成)のランドスケープ」をどのように変化させるのかについては、これまで十分に解明されていませんでした 。

 

画期的な生体内(in vivo)解析アプローチ

この謎を解明するため、センドエル博士らのチームは、マウスの表皮を用いて、老化過程における組織全体の翻訳状況を追跡するための新しい手法を開発しました 。

  • リボソーム伸長の阻害: 生きたままの状態でタンパク質合成を止めるため、シクロヘキシミド (CHX: cycloheximide) を用いてリボソームの動きを効果的に停止させた状態で細胞を単離しました 。
  • RNase Iの活用: 従来の微量手法ではなく、バルク解析で一般的に用いられるRNase I酵素を採用することで、データの品質を示す指標である「トリプレット周期性」の評価を可能にしました 。
  • この技術により、生体内システムにおける単一細胞レベルでのリボソームプロファイリングの適用範囲が大きく広がりました 。

 

加齢に伴う特異的な翻訳プログラムの再構築

研究チームは、この新技術と 単一細胞RNAシーケンシング (scRNA-seq: single-cell RNA sequencing) を組み合わせることで、表皮を構成する主要な細胞の生体内での翻訳効率を網羅的にマッピングすることに成功しました 。

  • 若い幹細胞では、特定の遺伝子群の翻訳が低く抑えられていることが確認されました 。
  • しかし、老化した 表皮幹細胞 (EpSC: Epidermal stem cells) では、転写因子であるAP-1のサブユニット(Jun、Fosなど)の翻訳プログラムが選択的に誘導され、顕著に再構築されることが特定されました 。
  • 一方、転写レベルでは増加が見られても、翻訳レベルでは増加しない遺伝子(Krt6aやKrt16など)も存在し、転写と翻訳の制御が複雑に絡み合っていることが分かりました 。

本研究は、特定の細胞型における翻訳プログラムを解明する上で、生体内単一細胞リボソームプロファイリングがいかに強力であるかを示しています 。この成果は、翻訳の異常が幹細胞の老化にどのようにつながっているのかを解き明かし、将来的なエイジングケア研究に貢献するスケーラブルな戦略を提供しています 。

https://www.cell.com/molecular-cell/fulltext/S1097-2765(26)00271-6

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