AIが"生命の設計図"を書き上げた!史上初、機能する完全長ウイルスゲノムをゼロから生成

薬の効かない「スーパー耐性菌」との闘いに、思いがけない助っ人が登場しました。米スタンフォード大学(Stanford University)とアーク研究所(Arc Institute)の研究チームが、AI(人工知能)に細菌を殺すウイルス「バクテリオファージ(bacteriophage)」の設計図を、一から丸ごと書かせることに成功したのです。しかも、その"AI製ウイルス"は実際に細菌に感染し、増殖し、既存のウイルスを凌ぐ性能を示すものまであったといいます。これはSFの世界の話ではなく、2026年8月に学術誌『Science』に掲載された最新の研究成果です。

研究の背景

抗生物質が効かない薬剤耐性菌は世界的な脅威となっており、細菌だけを狙って殺すウイルス「バクテリオファージ(通称:ファージ)」を使った治療法が注目を集めています。しかし天然のファージは、細菌が耐性を獲得するスピードに追いつけないという課題を抱えていました。

これまでもAIを使った生物設計は行われてきましたが、その多くは個々の遺伝子やタンパク質といった「部品」レベルにとどまり、ゲノム全体を丸ごとゼロから設計するのは、あまりにも複雑すぎて実現困難とされてきました。研究チームが用いたのは、「Evo」と呼ばれるゲノム言語モデルです。これは、DNA配列を一種の"言語"とみなし、数百万から数兆塩基にも及ぶ細菌やファージのゲノムを学習することで、進化的に自然な新しいDNA配列を生成できる大規模言語モデル(LLM: Large Language Model)です。

発見の詳細

研究チームは、1977年に世界で初めて全塩基配列が決定されたことで知られる、大腸菌に感染する小型のモデルファージ「ΦX174(ファイエックス174)」を"お手本"に、Evoに新しいファージゲノムを生成させました。ΦX174に由来するごく短い配列の断片だけを"書き出し"として与え、そこから先はAIが自動的に、ゲノムの終わりまで丸ごと書き上げるという方法です。

計算機上で数千個の候補ゲノムを生成・評価した後、その中から約300個を実際に化学合成し、大腸菌に感染させる実験を行いました。その結果、16個のゲノムが実際に機能する、つまり細菌に感染して増殖できるファージとして"生きて"いることが確認されました。これらの機能的なファージは、お手本となったΦX174と比べて67~392か所ものDNA配列の変化(変異)を独自に持っており、一部は新種と呼べるレベルの違いがありました。それでいて、中には本家のΦX174よりも速く細菌に感染し、増殖する優秀な"個体"も含まれていたのです。

さらに興味深いのは薬剤耐性対策としての可能性です。ΦX174に対して耐性を持つようになった大腸菌に、AIが生成した複数のファージを混ぜた"カクテル"を投与したところ、わずか1~2回の継代培養で耐性菌を制圧できました。天然のΦX174に似たファージの混合物では5回継代してもなかなか制圧できなかったことと比べると、この差は際立っています。

研究チームはさらに、生成されたファージの一つについてクライオ電子顕微鏡(Cryo-EM)で立体構造を解析し、進化的にかけ離れた由来を持つはずのDNA梱包用タンパク質が、意外にもウイルスの外殻(カプシド)にうまく収まっていることを突き止めました。これは、AIが自然界には存在しない新しい組み合わせの"生物学的パーツ"を、機能を保ったまま生み出せることを示しています。

研究の意義と安全性への配慮

今回の成果は、AIによって全ゲノム規模の生物設計を行うための"青写真"を示したものであり、進化的に新規で多様性に富んだファージを迅速に生み出せる合成生物学の新しい可能性を切り開くものです。薬剤耐性菌に対抗する次世代のファージ療法の開発を大きく後押しすることが期待されます。

一方で、こうした生成AIがウイルスのゲノムを丸ごと設計できるようになったこと自体が、バイオセキュリティ上の新たな課題を提起しているとも指摘されています。『Science』誌に同時掲載された専門家による解説記事では、この技術がヒトや動植物に病気を引き起こす病原体の設計に悪用されないよう、ガバナンス体制の整備が急務であると強調されています。研究チーム自身も、今回のモデルの学習データからヒトに感染する病原体を意図的に除外するなど、安全性に配慮した設計を行ったとしています。

本研究論文は、2026年8月6日に『Science』誌に掲載されました。タイトルは「Generative Design of Bacteriophages with Genome Language Models(ゲノム言語モデルによるバクテリオファージの生成的設計)」です。研究を主導したのは、アーク研究所(Arc Institute)およびスタンフォード大学(Stanford University)のサミュエル・H・キング氏(Samuel H. King)と、ブライアン・L・シー博士(Dr. Brian L. Hie)らのチームです。

[Science article] [Arc Institute news]

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