新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染した後、一部の患者では自分自身の組織を攻撃してしまう「自己抗体」が体内に現れることが知られており、いわゆる罹患後症状(Long COVID)との関連も指摘されてきました。しかし、こうした自己抗体を実際に作り出している免疫細胞の正体は、これまで明らかになっていませんでした。米シアトルのシステムバイオロジー研究所(Institute for Systems Biology、ISB)を中心とする研究チームは、この自己抗体産生の「発信源」となる特殊なB細胞集団を特定したとする研究成果を、科学誌Immunityに発表しました。論文タイトルは「A distinct effector B cell population drives autoantibody production in SARS-CoV-2 infection(新型コロナウイルス感染において自己抗体産生を駆動する特殊なエフェクターB細胞集団)」です。
研究チームは、大規模コホート「INCOV」に参加した新型コロナ感染者の中から、自己抗体量が高いグループと低いグループを年齢・性別をそろえて選び出し、血液中のB細胞についてシングルセルRNAシーケンシングとATACシーケンシングを実施。さらに血漿プロテオミクスや網羅的な自己抗体プロファイリング、臨床データ、試験管内での機能解析を組み合わせて統合的に解析しました。
その結果、「異型メモリーB細胞(atypical memory B cell、AtM)」と呼ばれる細胞集団、中でも「DN2」と呼ばれるサブセットが、自己抗体量の増減と強く連動していることが判明しました。DN2細胞は、ウイルスのRNAを認識するセンサーであるTLR7/8からの刺激を受けると、優先的に自己抗体を分泌する形質細胞へと分化する性質を持っていました。この細胞では、TLR7シグナルの増強や酸化ストレス、抗体クラススイッチが起きており、転写因子T-betとXBP1がその働きを制御していることも分かりました。
興味深いことに、新型コロナ感染者由来のDN2細胞は、全身性エリテマトーデス(ループス)患者に見られるDN2細胞と極めてよく似た性質を示しました。さらに、自己免疫疾患のなりやすさに関わる遺伝的リスクは、数あるB細胞サブセットの中でもDN2細胞において最も強く集中していることが分かり、DN2細胞が自己免疫反応の「震源地」であることが裏付けられました。また、自己抗体量が高い患者ほど、ウイルスを中和する防御的なIgG抗体の量は低い傾向がみられ、感染防御と自己免疫反応との間にトレードオフの関係がある可能性も示唆されています。
本研究は、ISBのダン・ユアン(Dan Yuan)氏を筆頭著者とし、ISB所長を務めるジム・ヒース(Jim Heath)博士をはじめ、ワシントン大学、フレッド・ハッチンソンがんセンター、スタンフォード大学など複数の研究機関が参加する共同研究として行われました。
研究チームは、TLR7やT-bet、XBP1といった分子経路が、新型コロナ感染後に生じる自己免疫的な合併症を防ぐための治療標的になりうると指摘しています。DN2細胞はループスだけでなく、HIV感染症やマラリア、加齢に伴う免疫変化などでも報告されており、今回の知見は新型コロナに限らず、幅広い自己免疫・感染症研究への波及効果も期待されます。
