「The essential role of hydrogen gas recycling by gut microbes in reducing deuterium load in host mitochondria: is trimethylamine oxide a deuterium sensor?(腸内微生物による水素ガスリサイクルの宿主ミトコンドリア重水素負荷軽減における必須の役割:トリメチルアミンオキシドは重水素センサーか?)」ステファニー・セネフ(Stephanie Seneff)博士とラズロ・G・ボロス(László G. Boros)博士は、腸内微生物叢(マイクロバイオーム)が宿主のミトコンドリアに対して「重水素が減少した(deupleted)」栄養素を供給するという、これまで見過ごされがちであった重要な役割を担っていることをレビュー論文にて指摘しました 。
重水素によるミトコンドリアへのダメージと腸内細菌の役割
ミトコンドリア内のATP合成酵素(ナノモーター)は、重水素の過剰な負荷によってダメージを受けます 。これにより、ミトコンドリア基質における水生成の低下や、活性酸素種(ROS: reactive oxygen species)の増加、非効率なエネルギー(ATP)産生が引き起こされてしまいます 。
通常、健康な腸内微生物は水素ガスをリサイクルすることで、トリメチルアミン(TMA: trimethylamine)を完全に代謝し、重水素の少ない良質なメチル基などの栄養を宿主へ提供しています 。しかし、腸内環境が乱れる(ディスバイオシス)と、TMAが完全に代謝されず、重水素を豊富に含んだまま肝臓へと運ばれます 。
TMAOは「重水素過剰」を知らせるセンサーか?
微生物の代謝産物が肝臓で酸化されてできるトリメチルアミンN-オキシド(TMAO: trimethylamine N-oxide)は、糖尿病、脂肪肝、動脈硬化、さらにはがんや認知症など、多くの慢性疾患に伴って血中濃度が上昇する強力なシグナル伝達分子です 。セネフ博士らは、TMAOが単に腸内環境の乱れを示すだけでなく、メチル化経路における「重水素過剰(deuterium overload)」のマーカー(センサー)として機能しているという新たな仮説を提示しました 。
このことを裏付ける興味深いデータがあります。マウスに完全に重水素化されたメチル基を持つ合成コリンを与えた過去の研究では、血漿中に重水素化されたTMAOが検出されました 。その対照として、TMAOの前駆体である天然のコリンを豊富に含む「卵」を摂取するような食事では、血中のTMAOレベルは上昇しません 。これは、合成サプリメントと天然の栄養素における重水素含有量の違いが影響していることを強く示唆しています 。
また、TMAOの上昇と関連する多くの病態(動脈硬化における泡沫細胞の形成など)も、生体がミトコンドリアに重水素が減少した水(DDW: deuterium depleted water)を供給し、体を守るための代償的な戦略であると捉え直すことが可能だと論じています 。
「医食同源(food is medicine)」の言葉通り、食物繊維や良質な脂肪、天然の栄養素に富む食事が腸内環境を整えることは、重水素の毒性からミトコンドリアを守り、全身の健康を保つために極めて重要です 。
https://link.springer.com/article/10.1007/s11306-026-02443-3

