がんを攻撃するT細胞だけをパワーアップ!副作用を抑えた次世代の遺伝子改変プラットフォームとは?

がん免疫療法の最前線で、画期的な新技術が誕生したのをご存知でしょうか?患者さん自身の免疫細胞を使ってがんを攻撃する治療法は大きな期待を集めていますが、がんにだけ効く細胞を効果的に増やし、強化することは長年の課題でした。しかし今回、まるで「熟練の狙撃手」のように、腫瘍を攻撃するT細胞だけをピンポイントで見つけ出し、強力にパワーアップさせる画期的な手法が開発されたのです! 

『Cell Reports』誌に掲載された論文「「Peptide-MHC-targeted engineered virus-like particles enable selective priming and gene editing of tumor-specific T cells(ペプチドMHCを標的としたエンジニアードウイルス様粒子は、腫瘍特異的T細胞の選択的プライミングと遺伝子編集を可能にする)」」において、ブライアン・H・シム(Brian H. Shim)博士、Q・ヘンリー・ジャオ(Q. Henry Zhao)博士、ジャック・A・クイーンナン(Jack A. Queenan)博士、ブレイク・E・スミス(Blake E. Smith)博士、マイケル・E・バーンバウム(Michael E. Birnbaum)博士、デビッド・R・リウ(David R. Liu)博士らの研究チームは、新たな免疫細胞のエンジニアリング手法を発表しました。

 

TIL療法の課題と新たなアプローチ

現在、有望ながん治療法の一つとして、患者さんの腫瘍内に存在するT細胞を活用する腫瘍浸潤リンパ球(acronym: TIL)療法があります。しかし、この治療法には大きな壁がありました。それは、腫瘍を特異的に攻撃できるT細胞の数が非常に少ないことや、過酷な腫瘍微小環境によってT細胞が疲弊し、機能不全に陥ってしまうことです。

これまでにもT細胞の機能を強化するための遺伝子編集技術は開発されてきましたが、従来の技術では標的以外の「バイスタンダーT細胞」まで無差別に編集してしまい、予期せぬ免疫毒性(副作用)を引き起こすリスクがありました。そこでシム博士やジャオ博士らは、目的のT細胞「だけ」を狙って遺伝子を編集し、増殖させる新しいプラットフォームの開発に挑みました。

 

pMHC-eVLPプラットフォームの誕生

研究チームは、ウイルスゲノムを持たず安全性の高いエンジニアードウイルス様粒子(acronym: eVLP)の表面に、特定の抗原を提示するペプチド主要組織適合遺伝子複合体(acronym: pMHC)を配置した「pMHC-eVLP」を開発しました。

このpMHC-eVLPは、特定の抗原を認識するT細胞受容体(acronym: TCR)を持つCD8+ T細胞だけに結合し、その内部へリボ核タンパク質(acronym: RNP)などの遺伝子編集ツールを送り込むことができます。

 

プライマリーT細胞の選択的なターゲティングと編集

研究チームは、インフルエンザやサイトメガロウイルス(CMV)、エプスタイン・バーウイルス(EBV)などの抗原を提示するpMHC-eVLPを作成し、ヒトのT細胞株に投与しました。その結果、pMHC-eVLPは自分に合致するTCRを持つT細胞だけを正確に見つけ出し、効率的に塩基編集を行うことに成功しました。標的細胞がわずか0.05%しか存在しない混合培養液の中でも、正確に標的細胞だけを編集できたのです。

さらに、バーンバウム博士やリウ博士らは、この技術が実際の腫瘍抗原(NY-ESO-1や変異型p53、KRASなど)に対しても有効であることを確認しました。

 

希少な抗原特異的T細胞の「増殖」と「編集」を同時に実現

このシステムの最も驚くべき点は、遺伝子編集だけでなく、標的となる細胞の「増殖(プライミング)」も同時に引き起こすことです。

健康なドナーから採取した末梢血単核球(acronym: PBMC)に対し、改良型のpMHC-eVLP(粒子表面の単鎖三量体(acronym: SCT)を安定化させたバージョン)を投与したところ、標的となる希少な抗原特異的T細胞だけが特異的に遺伝子編集されただけでなく、その細胞数が劇的に増加することが確認されました。共刺激シグナル(抗CD28抗体)を加えることで、この増殖効果はさらに高まりました。

 

ポリクローナルリンパ球による強力な抗腫瘍効果

最後に、研究チームはこの技術が実際の治療シナリオでどれほど有用かを検証しました。TIL療法の拡大培養を模倣し、PBMCをpMHC-eVLPで処理して腫瘍特異的T細胞を選択的に増殖・編集しました。ここで導入されたのは、T細胞の機能を強化する免疫刺激性の遺伝子編集(RASA2やDGKZ遺伝子の改変)です。

その後、このT細胞をがん細胞と繰り返し共培養した結果、pMHC-eVLPで処理されたT細胞は、未処理のT細胞に比べてはるかに強力なインターフェロンガンマ(IFNγ)応答を示し、がん細胞を効率的かつ持続的に死滅させる能力を獲得していることが明らかになりました。

 

結論と今後の展望

本研究は、pMHC-eVLPが、バイスタンダーT細胞を誤って編集してしまうリスクなしに、患者さん自身のTIL(腫瘍浸潤リンパ球)を選択的に強化できる強力なツールであることを証明しました。

リウ博士やバーンバウム博士らが開発したこの技術は、がん免疫療法の精度と安全性を飛躍的に高める可能性を秘めています。将来的に、複数の腫瘍抗原を標的としたマルチプレックスなアプローチや、体内(in vivo)で直接T細胞を改変する治療法の実現に向け、さらなる研究が期待されます。

https://www.cell.com/action/showPdf?pii=S2211-1247%2826%2900588-7

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