がんは早期に見つかれば見つかるほど、治療の選択肢も生存率も大きく変わります。しかし実際には、症状が出てから初めて発見されるケースが多く、その時にはすでに進行してしまっていることも少なくありません。もし、病院で日常的に行っている血液検査や胸部レントゲンのデータから、がんの兆候を「診断される1年も前に」読み取ることができたとしたら――。そんな未来を後押しする研究が、科学誌「Cell」に発表されました。

中国・温州医科大学(Wenzhou Medical University)を中心に、北京大学(Peking University)、マカオ科技大学(Macau University of Science and Technology)、さらに米国カリフォルニア大学サンディエゴ校(UC San Diego)、ハーバード大学医学部(Harvard Medical School)、英国オックスフォード大学(University of Oxford)など、世界各地の研究機関からなる国際共同研究チームが、「「日常的な臨床データを用いたがんの検出と治療の進展(Advancing cancer detection and treatment using longitudinal routine clinical data)」」という論文を発表しました。

研究チームが開発したのは、「Oncoformer(オンコフォーマー)」と呼ばれるAIモデルです。Oncoformerは、電子カルテ(EHR: electronic health record)に蓄積された検査値と、胸部X線画像を組み合わせて学習するトランスフォーマー(transformer)型の深層学習モデルで、約367万人、1,770万件を超える診療記録からなる中国の大規模コホート「COMPASS(China Oncology Multimodal Prediction and Surveillance Study)」で訓練されました。さらに英国の大規模データベース「UKバイオバンク(UK Biobank)」を用いて、独立した検証も行われています。

その性能は注目すべきものでした。Oncoformerは、すでにがんを発症している患者を見分ける「がん診断」において、AUROC(受信者動作特性曲線下面積)0.956という高い精度を示しました。さらに、まだ症状が出ていない段階で、診断が下される最大1年前の時点から将来のがん発症を予測することにも成功し、そのAUROCは0.869に達しました。加えて、腫瘍のステージ(病期)推定でも平均AUROC0.90以上を記録し、これは手術後の病理診断結果とも一致していました。10種類のがん種にわたって、治療への反応や再発の有無まで予測できたといいます(いずれもP<0.01)。

大腸がんの高リスク集団3,025人を対象にしたパイロットスクリーニングでは、感度90%、特異度86.8%という結果を示し、60例の大腸がんのうち54例を正しく検出しました。がん診断への寄与が大きかった検査値としては血液中のアルブミン(albumin)と好中球(neutrophil)の割合が、病期推定にはアルカリホスファターゼ(ALP: alkaline phosphatase)や乳酸脱水素酵素(LDH: lactate dehydrogenase)が重要な役割を果たしていることも分かりました。

研究チームは、Oncoformerについて、日常的に集められている低コストのデータを、がんの経過を映し出す動的な情報へと転換する枠組みになると位置づけています。一方で、COMPASSコホートの参加者の99%以上がアジア系であり、UKバイオバンクは白人系欧州人が中心であるなど、集団の偏りが今後の課題として残されています。研究チームは、多様な臨床現場や複数のがん種を対象とした大規模な前向き試験が、実際の臨床導入に先立って必要になると述べています。

 [Cell誌記事] [DOI: 10.1016/j.cell.2026.07.009]

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