肺などの気道に生息する常在菌(マイクロバイオータ)は、病原体の侵入を防ぐ「門番」としての役割を担うことが知られています。しかし、どのような性質を持つ菌が優れたプロバイオティクスとなり得るのか、その体系的な理解は十分に進んでいませんでした。米カリフォルニア大学バークレー校(UC Berkeley)、ローレンス・リバモア国立研究所(Lawrence Livermore National Laboratory)、サンディア国立研究所(Sandia National Laboratories)などの研究チームは、マウスの気道から分離した候補菌を用いて、病原体との「代謝的なニッチの奪い合い」に着目した新しいプロバイオティクス設計の枠組みを提示しました。
論文「Niche exclusion of a lung pathogen in mice with designed probiotic communities(設計されたプロバイオティクス集団によるマウス肺病原体のニッチ排除)」は、学術誌eLifeに掲載されています。
研究チームを率いたケルシー・E・ハーン(Kelsey E Hern)博士らは、マウスの気道組織から、肺を模した培地で増殖可能な10種の候補プロバイオティクスを分離しました。これらを、呼吸器感染症のモデル病原体であるバークホルデリア・タイランデンシス(Burkholderia thailandensis、Bt)と組み合わせ、まず試験管内で拮抗作用を評価しました。さらに炭素源の利用パターンや代謝産物の分析(エクソメタボロミクス)をもとに、候補菌と病原体がどれだけ同じ栄養源を奪い合っているかを示す指標「ニッチインデックス(Niche Index)」を新たに開発しています。
その結果、6種の阻害候補のうち5種では、抗菌物質の産生ではなく、病原体と同じ栄養源を奪い合う「代謝的ニッチ排除」が拮抗作用の主な要因であることが分かりました。気道内は喀痰と同様に炭素源が乏しい環境であり、培地にグルコースを追加すると、候補菌と病原体の間の拮抗作用は弱まりました。特に、乳酸の利用能力が高い候補菌ほど病原体への阻害効果が強い傾向が見られています。さらに、この指標を利用することで、CP8とCP19という2種の菌を組み合わせた場合に、代謝産物の産生とニッチの奪い合いの両方によって、単独よりも強い阻害効果が得られることも突き止めました。
マウスを用いた実験では、複数の候補菌が1回投与後も7日間にわたって気道に定着することが確認されました。中でもCP19とCP17という2種の候補菌は、致死量のBtに感染させたマウスの生存率を有意に改善しています。研究チームによれば、この2種は病原体との「ニッチの重なり」が最も大きいと予測された候補菌でもありました。また、これらのプロバイオティクスを投与したマウスでは、感染から3〜6日後の気道内の病原体量が減少しており、ニッチインデックスの値と病原体量との間には強い負の相関が見られています。興味深いことに、生きた菌でなくとも、感染の3日前に投与した場合には一定の防御効果が確認されており、免疫系を事前に刺激する働きが関与している可能性も示唆されました。
研究チームは、病原体が引き起こす炎症や上皮の損傷によって栄養豊富な体液が放出され、それがさらに病原体の増殖を助けるという「正のフィードバックループ」が存在すると考えています。プロバイオティクスはこの栄養源を先に消費することで、悪循環を断ち切っている可能性があるとのことです。今回示された枠組みは、有効なプロバイオティクス候補を迅速かつ低コストで絞り込むことを可能にするものであり、代謝産物の産生に頼る従来のアプローチと比べて、病原体側が耐性を獲得しにくいという利点もあると考えられます。今後は、病原体の栄養取り込み速度や宿主の遺伝的多様性、長期定着時の安全性なども含めた検証が必要だとハーン博士らは述べています。
