がん細胞の中に潜む小さな住人たち――「がんマイクロバイオーム」の驚くべき多様性と地域性が明らかに!

私たちの体には、たくさんの微生物が一緒に暮らしていることをご存じでしょうか。最近の研究では、驚くべきことに、がん組織(腫瘍)の中にも独自の微生物コミュニティが存在することが分かってきており、これを「がんマイクロバイオーム」と呼んでいます。しかし、がん組織の遺伝子解析データに混入してしまう背景の不純物(汚染)を取り除くのが難しく、本当のがんマイクロバイオームの姿についてはこれまで世界中で激しい議論が交わされてきました。

今回、アンダーズ・B・ドールマン(Anders B. Dohlman)博士、ロビン・ミェレ(Robin Mjelle)博士、ヘンリー・M・ウッド(Henry M. Wood)博士、カーティス・ハッテンハワー(Curtis Huttenhower)博士、ニコラ・セガータ(Nicola Segata)博士、そしてマシュー・メイヤーソン(Matthew Meyerson)博士らの国際研究チームは、世界最高峰の学術誌『Cell』に「Biodiversity and biogeography of the multi-kingdom cancer microbiome(多界にわたるがんマイクロバイオームの生物多様性と生物地理学)」という研究論文を発表しました 。

研究チームは、英国の「100,000ゲノムプロジェクト」から得られた16,369例という膨大な高深度腫瘍全ゲノムシーケンシングデータ(WGS: Whole Genome Sequencing)を対象に、ホスト(ヒト)由来の配列を差し引いて精密に分類する新たな情報解析パイプライン「Pathseq-T2T」を構築し、徹底的なベンチマークとデータ汚染除去(デコンタミネーション)を行いました 。

その結果、大変興味深い事実が明らかになりました。徹底的な汚染除去を行った後では、ほとんどのがん種において、検出される微生物のシグナルは背景のノイズと区別がつかないレベルだったのです 。つまり、多くのがん組織には、周囲と明確に区別できるほどのマイクロバイオームは存在しない可能性が示唆されました 。

しかし、例外がありました。口から胃、腸へと続く「消化管・口腔(orodigestive)腫瘍」の内部からは、非常に明確な微生物のコミュニティが検出されたのです 。しかもそこには、細菌(バクテリア)だけでなく、真菌(カビの仲間)、ウイルス、古細菌(アーキア)、さらには一部のケースでトリコモナス(Trichomonas)と呼ばれる単細胞の原生生物(プロトゾア)寄生虫までが含まれる、まさに「多王国(multi-kingdom)」にわたる多様な微生物が共存していました 。

さらに、これらの微生物コミュニティは、がんが発生した部位やそのサブタイプ(組織型)によって細かく変化していること(生物地理学的なバリエーション)も分かりました 。特に、遺伝子の修復機構がうまく働かなくなる「マイクロサテライト不安定性(MSI: microsatellite instability)」を持つ腫瘍や、DNA複製酵素であるポリメラーゼ(POLE/POLD1)に変異がある腫瘍において、微生物の定着がより強く見られることが突き止められました 。これは、がん細胞自体の遺伝子変異の多さ(腫瘍変異負荷:TMB)と、微生物の量(マイクロバイオーム負荷)が相関していることを意味しています 。

本研究は、がん全体における微生物の構造をすっきりと整理し、がんの中にいるマイクロバイオームが、患者さんの腫瘍の性質やゲノムの特徴とどのように結びついているかを明確に解き明かす重要な一歩となりました 。がんの個別化医療や、新たな診断・治療アプローチの開発に向けて、今後さらに大きな期待が寄せられています。

https://www.cell.com/cell/abstract/S0092-8674(26)00440-X

 

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