CRISPRよりもさらに小型で、たった1本のAAVベクターに搭載できるゲノム編集ツールがあれば、遺伝子治療の可能性は大きく広がります。米ペンシルベニア大学の研究チームは、実験データが乏しい新規タンパク質ファミリーであっても、AIの力を借りて効率よく進化させる手法を開発し、コンパクトなゲノム編集酵素の性能を飛躍的に高めることに成功しました。

研究の概要

本研究は、Nature Biotechnology誌に2026年8月24日付で掲載された論文「Adaptive model-guided protein evolution with sparse data optimizes compact eukaryotic genome editors(疎データを用いた適応的モデル誘導型タンパク質進化によるコンパクトな真核生物ゲノムエディターの最適化)」に基づきます。筆頭著者はシージエ・ワン博士(Shijie Wan, PhD、米ペンシルベニア大学博士研究員)、責任著者はシュエ・ガオ博士(Xue Gao, PhD、同大学准教授、Xue Gao Lab主宰)です。

小型ゲノム編集酵素が抱えていた壁

近年、CRISPR-Cas9よりも小さく、単一のAAV(アデノ随伴ウイルス)ベクターに収まるゲノム編集酵素「Fanzor(ファンゾア)」が、遺伝子治療用ツールとして注目されてきました。しかし、Fanzorファミリーの酵素は選別を行わない通常の哺乳類細胞では編集効率が低く、実用化には大きな課題が残されていました。既存のAI支援タンパク質工学は、性能を高めるために大量の実験データを必要としますが、Fanzorのような新しいタンパク質ファミリーではそもそも参照できるデータが乏しく、そうした手法をそのまま適用することができませんでした。

疎データからでも学習できる「EvoMax」パイプライン

研究チームはまず、1,600種類以上のFanzor2(Fz2)様配列を系統解析にかけて332個の候補を絞り込み、試験管内転写・翻訳(IVTT: in vitro transcription-translation)を用いたスクリーニングによって、Naegleria lovaniensis由来の「NaloFz2」など活性の高いオルソログを同定しました。そのうえで、少ない実験データからでもタンパク質の配列と機能の関係(フィットネスランドスケープ)を効率よく探索できる新パイプライン「EvoMax」を構築しました。EvoMaxは、反復的な実験プロファイリングと、転移学習を用いたガウス過程回帰(GPR: Gaussian process regression)、タンパク質言語モデル(PLM: protein language model)、逆フォールディング予測(IF: inverse folding)を組み合わせることで、限られたデータからでも有望な変異体を的確に提案できる点が特徴です。このEvoMaxによる進化と、ガイドRNA(ωRNA)の構造誘導型最適化を組み合わせることで、改良型酵素「FanzMAX v3-hLa」を生み出しました。

既存ツールを大きく上回る編集効率

ヒト培養細胞(HEK293T)を用いた検証では、FanzMAX v3-hLaは内因性遺伝子座において最大97%、19カ所の遺伝子座平均でも約33%という高い編集効率を達成しました。これは、既存のコンパクト型ゲノムエディター(enNlovFz2やenCnCas12f1など)と比較して2.6倍以上、条件によっては約10倍の性能向上に相当します。さらに、標的認識に必要な配列(TAM)の許容範囲も広がり、より多くのゲノム領域を編集対象にできるようになりました。ヒト化マウスを用いたin vivo実験でも、単一のAAVベクターでhPCSK9遺伝子を標的とした編集に成功し、治療応用に向けた実現可能性が示されています。

研究の意義と今後の展望

今回開発されたEvoMaxは、実験データが乏しい新規タンパク質ファミリーに対しても、データ効率よくAI駆動型の進化的最適化を行える汎用的な戦略として位置づけられます。単一AAV送達が可能なコンパクトゲノムエディターは、体内(in vivo)遺伝子治療への応用において大きな利点となるため、FanzMAXは次世代の遺伝子編集治療プラットフォームの有力な候補になると期待されます。研究チームは今後、EvoMaxを他のタンパク質ファミリーにも応用し、さらなる高効率化を目指すとしています。

[Nature Biotechnology article]

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