妊娠中に受ける出生前スクリーニング検査の血液サンプルから、赤ちゃんの染色体異常だけでなく、母体側の妊娠合併症リスクまで読み取れるかもしれません。ベルギー・ルーヴェン・カトリック大学(KU Leuven)の研究チームが、cfDNA(cell-free DNA: 細胞外遊離DNA)の断片化パターンを解析することで、免疫介在性疾患(自己免疫疾患など)を持つ妊婦の妊娠転帰を予測できる可能性を示しました。
妊婦の血液には、胎盤由来の細胞外遊離DNA(cfDNA)がわずかに含まれており、これを解析するNIPS(Non-Invasive Prenatal Screening: 非侵襲的出生前検査)は、ダウン症候群をはじめとする染色体異常のスクリーニングとして世界中で日常的に用いられています。
今回、KU Leuvenのケイト・イー・スタンリー(Kate E. Stanley)博士らの研究チームは、このNIPSで得られるcfDNAの配列データに、これまで着目されてこなかった追加の情報が眠っているのではないかと考えました。着目したのは「フラグメントーム(fragmentome)」、すなわちcfDNAが血中でどのように断片化されているかというパターンです。DNA断片の長さや切断部位の特徴(エンドモチーフ)、ヌクレオソームの位置情報などは、その由来となった組織や細胞の状態を反映することが知られています。
研究チームは、免疫介在性疾患を持つ妊婦を対象に、妊娠第1三半期に採取された血漿サンプルのシャロー全ゲノムシーケンシング(低深度の全ゲノム配列解析)データを用い、cfDNAフラグメントームの解析を行いました。その結果、フラグメントームのシグネチャ(特徴的なパターン)が、その後の妊娠経過や合併症のリスクと関連していることが示されました。
この手法の大きな利点は、すでに臨床現場でルーティンに実施されているNIPSの検査データをそのまま活用できる点にあります。追加の採血や特別な検査を必要とせず、既存のワークフローに組み込むだけで、妊娠初期の段階からリスクの高い患者を層別化し、より手厚い経過観察や早期介入につなげられる可能性があります。
免疫介在性疾患を持つ女性は、そうでない女性と比べて妊娠合併症のリスクが高いことが知られており、早期のリスク予測は臨床的に大きな意味を持ちます。研究チームは、cfDNAフラグメントーム解析が、非侵襲的でありながら妊娠管理の精度を高める新たなツールになりうるとしています。
本研究は、KU Leuven(ベルギー)のケイト・イー・スタンリー博士らによって行われ、学術誌Science Translational Medicineに掲載されました。
論文情報:「Cell-free DNA fragmentome analysis informs pregnancy outcome in patients with immune-mediated disease(cfDNAフラグメントーム解析による免疫介在性疾患患者の妊娠転帰予測)」Science Translational Medicine, 2026年8月掲載。DOI: 10.1126/scitranslmed.adz8846
