今まで話してきたように、核酸医薬はそのまま体内に投与しても、体内で分解され易く、更に細胞への導入効率が非常に悪く、殆どの場合効能を発揮できません。そこで、薬物の安定性を保ち、細胞に効率よく輸送するための運び屋が必要となります。この運び屋はウイルスベクターと非ウイルスベクターに大きく分類されます。1990年後半に考えられたDDSはウイルスベクターを用い、ウイルスの感染力を利用して細胞に薬物を送達する方法でした。しかし、この方法はウイルス由来のタンパク質による免役応答、ウイルスゲノムが染色体に取り込まれることによる他の遺伝子への影響や、ウイルスの増殖や変異などの有害現象が多く報告されました。特に、遺伝子治療の際に多く起きています。1999年にペンシルバニア大学でアデノウィルスベクターによる遺伝子治療受けた際には、大量投与で死亡する事故が起きました。さらに、2002年にはフランスでレトロウイルスベクターを用いた遺伝子治療では、細胞の癌化や白血病の発症が確認されました。そのため、最近ウイルスベクターを利用する方法はあまり用いられていません。ただ、私は核酸医薬の分野では、感染症や一部の癌には有効ではないかと思うのでが、多少の発熱などの副作用も伴います。

核酸医薬品はアンチセンスのヴィトラミューンが1998年に承認されて、その後2004年にRNAアプタマーのマキュジェンが承認されましたが、その後ヴィトラミューンが発売中止になり、それ以降核酸医薬はあまり開発が進んできませんでした。このことは、前から話しているように核酸医薬の安定性に問題があったからです。そして、このころから急速に開発が進んだ競合品の抗体医薬の市場導入により、核酸医薬は医薬市場で厳しい状態になり、更に核酸医薬の多くが臨床試験で有効性を証明できませんでした。そこで、siRNAに関してAlnylam社と資本提携をしていたRoche社が核酸医薬から完全撤退し、Novartis社もAlnylam社との提携を終了し、Merck社のsiRNA医薬からmiRNA医薬開発へのシフト、更にPfizer社は核酸医薬開発ユニットの解散など、メガファーマの核酸医薬からの撤退が相次ぎました。しかし、最近は2013年に世界初の全身投与型のアンチセンス核酸医薬のホモ結合型家族性高コレステロール血症を対象としたmipomersenがアメリカで承認され、2016年にはDDS技術を利用せずに化学修飾により血中安定性を実現した、デュシャンヌ型筋ジストロフィーに対するeteplirsenなどが承認されてきました。更に2018年にAlnylam社より、DDS技術を導入したsiDNA医薬patisiranがアミロイドーシスの核酸原因遺伝子の標的治療薬としてアメリカで承認されました。このように、最近では合成アミノ酸や化学修飾などを用いて核酸医薬品の安定性が高められ、更にDrug Delivery System(DDS)により体内安定性とターゲットへの薬剤の輸送が可能となりました。これからは核酸医薬の分野でDDSが必要不可欠な技術になっていくと考えられます。それでは、標的細胞へのDDSを用いた核酸輸送はどのように考えたらよいでしょうか。私は3つの方法があると考えています。まず一つは核酸医薬品が化学的修飾などで安定性が高ければ、核酸医薬品に標的リガンドをつけるAntibody-drug conjugate(ADC)やPeptide-Drug Conjugate(PDC)などを利用する方法と、機能性高分子ポリマーなどの機能性分子を付ける方法が良いと考えられます。次に核酸医薬品の体内での安定性に問題がある場合は、高分子ミセル・脂質ナノ粒子やエクソソームなどのDDSキャリアで保護して標的細胞に輸送するのが良いと思います。更に、核酸医薬を標的細胞内のターゲットであるミトコンドリアや細胞核に輸送したい場合は、DDSキャリアで標的細胞に輸送し、更に機能性分子を付けてミトコンドリアや細胞核に送る2段階のDDSを考える必要があるのではないでないでしょうか。

 Drug Delivery System(DDS)についは、核酸医薬との関連を中心に話したいと思いますが、その前にDDSが考えられた経緯について少し話してみたいと考えています。 低分子創薬が盛んな2000年以前は、レセプターとリガンドの創薬のスクリーニングで、天然物などや合成化合物をスクリーニングすることで、生理活性物質を探索してきました。しかし、見つかった生理活性物質が直ぐに薬になるかと言うと、以前にも話したように生体に投与した際の体内動態などの問題で殆どの生理活性物質は薬になりません。そこで、経口投与薬の場合、体内吸収や体内動態を良くするために発展したのが製剤の技術です。生理活性物質にポリエチレンオキシドとポリエチレングリコールなどを加え、混合した徐放性製剤にすることにより体内での放出を制御し、薬物の血中濃度を治療領域に長時間一定に維持することで、体内での薬効作用をコントロールできました。私はこれがDDSの考え方の始まりと考えています。

現在、医薬品として承認されている核酸医薬は、AIDS 患者におけるサイトメガロウィルス(CMV)性網膜炎に適用されるアンチセンス、Vitravene(fomivirsen)と、血管新生型(滲出型)加齢性黄斑変性症に用いられるアプタマー、Macugen(pegaptanib)の2つのみである。Macugenは、2008 年7 月に承認された国内初の核酸医薬品で、Vitravene、Macugenいずれも硝子体内への局所投与であり、作用の発現は限局的である。しかし、今後は全身適用可能な核酸医薬品の開発が求められている。大阪大学の森下竜一教授たちはデコイ核酸医薬の開発を行い、Drug Delivery System(DDS)と組み合わせて、全身適用可能な抗炎症薬の開発を考えています。デコイ型核酸医薬は、転写因子の結合部位を含むオリゴヌクレオチドを合成し、2 本鎖核酸とし、ターゲット細胞の核内に導入することで遺伝子発現を抑制する方法を応用した核酸医薬です。デコイが転写因子と結合することでDNA 上への転写因子の結合を阻害し、プロモーター活性が低下し、本来発現する遺伝子群がコントロールされ、活性化される遺伝子群の発現を調節する方法です。デコイは細胞周期や炎症などターゲットとなる現象に関与する複数の遺伝子を同時に制御することが可能であることから「おとり型核酸医薬」と言われています。デコイ型核酸医薬はアンチセンス法より高い効果を得ることができ、特にデコイオリゴは細胞周期に関与するE2F、炎症に関与するNFκB、そして細胞増殖・分化関与に対する治療効果が期待されます。そのため、炎症反応を担うサイトカインや接着分子の転写発現を抑制することでその作用を発揮し、炎症性疾患の治療薬としての期待が寄せられています。特に森下教授たちは、NFκB デコイオリゴのアトピー性皮膚炎治療薬としての開発に期待している。アトピー性皮膚炎の治療薬であるステロイドの抗炎症作用は、IkBの発現を増強し、NFκBの活性化を制御することが作用機序の一つになっていて、これはNFκB デコイオリゴの作用点と同じと考えられています。ステロイドはIkBへの応用以外にも多岐にわたる作用を持っていることから、その多岐の作用が副作用発現に関与していると考えられています。しかし、特異的なNFκB活性阻害を有するデコイオリゴはステロイドよりも高い安全性があるのではないかと考えられています。私はデコイ型核酸が細胞増殖や分化に関与する治療効果も可能なことから、抗癌剤の開発にも応用できるのではないかと考えています。

核酸アプタマーは一本鎖のDNAやRNAから構成された核酸医薬ですが、細胞内でmRNAやゲノムDNAとのハイブリダイゼーションで薬効を発揮する他の核酸医薬の作用機序と異なり、抗体と同じように標的タンパク質や細胞と結合し、細胞膜上や細胞外で薬効作用を発揮します。すなわち、一本鎖のDNA/RNAが熱的に安定な立体構造の分子内相補鎖を形成することで、標的分子に特異的に結合する物質になります。この原理から、この物質を標的に特異的に結合する分子を指す、ラテン語のaptus(結合)とギリシャ語のmeros(部分)を合わせてアプタマー呼ぶようになりました。更にアプタマーは標的分子に特異的に結合することから「合成抗体」、「化学抗体」や「核酸抗体」と言われ、よく抗体と対比して語られます。アプタマー作成法は1990年にTuerk(Science 246, 505-510, 1990)とElllington (Nature 346, 818-822,1990)らによって報告された、SELEX(Systematic Evolution of Ligands by Exponential Enrichment)法を利用しています。初めにSELEX法は10~50残基ほどのランダムな配列を持つ一本鎖DNA/RNAを合成し、熱処理して相補配列に基づく三次元構造形成したDNA/RNAのライブラリーができます。天然のDNAは基本的に二重らせん構造ですが、アプタマーのように人工的に作られたDNA/RNAは二次構造を形成し、複雑な立体構造を形成することで、多種多用なライブラリーが構築できます。このライブラリーを用いてアプタマーの探索を行います。ライブラリーに標的タンパク質や細胞を添加して、標的に結合した数種のDNA/RNAを抽出して、PCRでこれらのDNA/RNAを増幅します。更にこの増幅したDNA/RNAを再度単鎖にしてから、もう一度立体構造を形成させると、何種類かの異なったDNA/RNA配列と立体構造のライブラリーが出来て、このライブラリーに再度標的タンパク質や細胞を添加して結合DNA/RNAを抽出します。この操作を何回も繰り返すことで標的タンパク質や細胞に特異性の高いアプタマーを得ることができます。以上のことから考えると、如何に標的タンパク質や細胞に特異性の高いアプタマーを得ることが出来るかのカギは、SELEX法を用いて多くの一本鎖DNA/RNAを合成し、如何に多様な三次元構造のライブラリーを作成することであると考えられるのです。

皆様、新年あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。コロナ禍が一向に終息の兆しが見えませんが、今年はWithコロナの生活が昨年以上に定着していくのではないでしょうか?それでは、今回は予定どおりsiRNAを紹介しましょう。siRNAは2006年のノーベル賞生理学・医学賞を受賞したスタンフォード大学のProf. Andrew Z. Fireとマサチューセッツ大学のProf. Craig C. Melloが発見した、2本鎖RNAによる遺伝子発現制御現象のRNA interference(RNA干渉)の現象を利用した核酸医薬です。

ここで核酸医薬のメリットを少し話すことにします。疾病の原因となるタンパク質に作用し、その機能を阻害する低分子医薬品や抗体医薬と異なり、核酸医薬は疾病の原因となる遺伝子発現を制御しており、従来の医薬品と異なり遺伝子選択性が高く、標的に直接作用します。そのため今まで開発が困難とされた難病の治療にも期待されており、更に薬物の副作用も軽減されると考えられます。現在承認されている核酸医薬は、国立医薬品食品衛生研究所遺伝子医薬部のホームページで確認すると2022年8月時点では以下のようになっています。これを見ると承認された核酸医薬品で一番多いのはアンチセンスで、次にsiRNAになります。そこで、初めにアンチセンスについて詳細を説明することにします。

この3年間のコロナ禍でワクチン接種の話が良く出ています。特に直近ではコロナウイルスオミクロン株亜系統BA5で、今まで以上に高い第7波の感染拡大に見舞われ、4回目のワクチン接種が勧められています。しかし、ウイルスは変異することにより薬に対する耐性も獲得するので、今のワクチンがBA5の感染予防にどれほど効果があるか疑問視されていますが、少なくても重症化を防ぐ効果は高いと考えられています。 ところで、コロナウイルスのmRNAワクチンとはどのようなものなのでしょうか。一般的にRNAはゲノムDNAの一部分を転写したもので、その後翻訳され蛋白質なります。コロナウイルスのmRNAワクチンはこのmRNAから翻訳さら蛋白質が出来ることを利用して、コロナウイルスの表面の蛋白質をコードするmRNAを人工合成してワクチンを作ります。そのため、このワクチンを接種すると体内でコロナウイルス表面の蛋白質が生成され、この蛋白質を免疫細胞が取り込むことで、ウイルスに対する抗体が生成されるので、体内でのウイルスの増殖を抑えることが出来ます。この様にDNAや転写因子のRNAを利用した薬の分野を「核酸医薬」と言います。最近この核酸医薬に分野が進んでおり、低分子医薬から抗体医薬に続く第3の医薬と言われています。

人間の病気の殆どは感染症と癌・成人病(生活習慣病)や先天性心疾患などの個別化医療の疾患領域であり、薬の開発の考え方や手段など創薬が異なります。この中で癌の領域の創薬は、2000年以前は癌細胞殺すか細胞増殖を抑える薬の開発が殆どで、感染症と同じような考え方でしたが、2000年以降はバイオマーカーを用いた個別化医療の疾患領域の創薬の考え方に変わっています。コロナウイルス感染が世界的に猛威を振るう前は、感染症の薬はインフルエンザの治療薬がRocheなどで開発されてから、新しい薬の開発は殆ど必要無いと考えられ、多くの製薬企業は感染症医薬品から手を引いていました。それは、前々回もお話しましたが、感染症の治療薬や予防薬はウイルスや病原菌の増殖を抑えることを目的に開発されるため、全ての人に共通に使用できます。薬に患者さん個人に差があるとすれば、効き方と副作用の出方なので、一つの疾患に対して多種の薬を開発する必要がなく、特効薬が開発されれば解決するからです。また、感染症の治療薬の創薬は低分子創薬が中心で、殆どの製薬企業が低分子創薬のスクリーニングに用いていた低分子創薬用のライブラリーを手放してしまい、今回のコロナウイルスの治療薬開発に迅速に対応できなかったと考えられます。迅速に対応できた製薬企業は、以前から感染症の分野に強く、豊富な低分子創薬のライブラリーを維持してきた、ファイザー製薬や塩野義製薬などでした。

前回、私たちのグループ(Spectro Decyphe & CaBNET)の臨床バイオマーカー探索の手法をもう少し詳しくお話ししたいと書きましたが、このグループは臨床医も参加しており、一昨年からのコロナ禍のためグループの具体化が進展していない状態です。早くコロナウイルス感染が収まることを期待しているところです。そのため今回はグループの具体的な臨床バイオマーカー探索の手法では無く、私たち(Spectro Decypher)が考えている臨床バイオマーカー探索の手法をお話します。

このコラムの初めの頃に個別化医療に関して説明しましたが、個別化医療で重要になるのは科学的に患者さんを層別でき、最適の薬を選べる遺伝子やタンパク質などの診断マーカーです。癌の領域では他病気の領域よりも診断マーカー(腫瘍マーカー)が少し進んでいると思われますが、患者個々人で病気の状況も異なるので、個別化医療には程遠く、また癌以外の病気(感染症を除く)では診断マーカーが殆ど無いのが現状です。そのため、医療現場では現症診断にまだ多くを頼っており、遺伝子やタンパク質などの分子レベルで、ターゲットを予想して科学的に開発された医薬品の間に、まだまだ大きな谷があります。そのためには何が必要なのか。私は臨床の現場で起きている病気の現症を遺伝子やタンパク質などの分子レベルで解明し、それに合った最適な診断マーカーを病態組織や血液などの臨床資料から探索することが必要になっていると考えています。

コロナウイルス感染の第4波の中で、医薬品業界はコロナウイルス治療薬や予防薬の研究開発に全力を注ぐ必要があり、この時期に個別化医療で無いでしょうと考える人も多いと思います。そこで、今回は私たちの個別化医療を行うための臨床試料を用いたバイオマーカー探索グループの話をする前に感染症と個別化医療について少し話します。 人間の病気の殆どは感染症と個別化医療の疾患領域です。感染症は、治療薬や予防薬が全ての人に共通に使用できるので、個別化医療の考え方は必要ないと考えられます。個人差があるとすれば、効き方と副作用の出方ですので、一過性で特効薬が開発されれば解決します。一方、個別化医療は癌・成人病(生活習慣病)や先天性心疾患などで、疾患の出方が多様なため個々人にあった薬が必要になります。今のコロナウイルス感染での外出自粛が長引けば、私は生活習慣病が増えるのではないかと危惧しています。

今回は中分子化合物をPPI阻害剤として利用する以外の、新たな利用法に関して少し説明します。以前の「プロテイン相互作用を阻害する中分子創薬が最近話題」のところで、「最近では中分子サイクリックペプタイドがPPI阻害剤の開発への利用だけでなく、低分子創薬への応用や、抗体薬やドラッグデリバリーにも利用できるのではないかとも考えられています。」と書きました。

前回の話の中でも、プロテインープロテイン相互作用を阻害する中分子としてサイクリックペプタイドやペプチドミメティック化合物が有効であることやこれらの化合物は天然物の中に多く含まれていることを話しました。そして、今まで行われて来た低分子創薬には中分子は適さないことから、中分子天然物はスクリーニングの対象から除外されて来たため、現在は利用可能な中分子天然物のスクリーニング用のライブラリーは殆ど存在しないことも話しました。

中分子化合物の阻害対象はプロテインープロテイン相互作用部位であることは今までの話の中で何度か説明してきました。そこで、創薬にはプロテインープロテイン相互作用部位の解明が不可欠になります。プロテインープロテイン相互作用部位はシグナル伝達に関与している場は弱い相互作用であり、また機能に関与している場合は強い相互作用であると考えています。

前回までに、これからは中分子創薬の有用であることを話しました。中分子創薬をするにあたって一番困難な問題である、中分子創薬に応用可能な中分子のライブラリーが少ないことについては、以前「中分子創薬開発において有望な化合物ライブラリーはあるの?」のところで、中分子創薬に有効な化合物はサイクリックペプタイド、ペプチドミメティックなどの天然物化合物が有効であることや、現状では分子量が1000以上3000位の中分子創薬に特化した化合物ライブラリーが、ペプチドドリーム社のもの以外に、殆ど存在しないことを話しました。そこで、今回は創薬のリード中分子化合物探索のために、「中分子有機化合物のライブラリーをどうするか」と、「低分子有機化合物ライブラリーの利用法」に関して話します。 幾つかの製薬会社は、独自でライブラリーを作成していると聞いています。自社でアミノ酸を合成しサイクリックペプタイドのライブラリーを作例するのも一つの考え方ですが、その場合ペプチドドリーム社のアミノ酸と同じにならないように、別のコンセプトでアミノ酸を合成する必要があると考えています。

創薬開発において有望な中分子有機化合物は以前にも紹介しましたが、下記の図の様に2011年のJACSにAroraらが紹介したサイクリックペプタイド、ペプチドミメティックや天然物ライク化合物と考えられます。  

今回から中分子創薬の詳細について話すことにします。内容としては先ず多くの創薬研究者が思う、「中分子有機化合物は本当に医薬品になるのだろうか?」との疑問に対する話から始めて、創薬に応用可能な中分子のライブラリー、更に中分子が最も有効と考えられるプロテインープロテイン相互作用阻害剤における相互作用部位の解析手法、最後に総合的な創薬開発が期待される中分子創薬と今後の展望について話を進めたいと思います。

随分、長い間ご無沙汰しておりすみませんでした。昨年に中分子創薬が話題になっているので詳しく説明しますと言いました。しかし、最近の日本の創薬企業はここの研究よりも各社の創薬研究の方向性をどの様にするかが最大のテーマになっていて、中分子創薬がこれから伸びますと話しても各社余り乗り気になってくれません。

最近、プロテインープロテイン相互作用を阻害する中分子創薬が話題になっていますが、小職のところにも中分子創薬のセミナーをしてくださいとの依頼がありました。そこで、先日「中分子医薬品の基礎/最新動向を踏まえた創薬・開発の留意点」という題名でセミナーをしたところです。

実際には遺伝子の変異やプロテインなどの分子の構成や感度のパターンの違いにより様々なタイプの患者がいることが最近わかってきています。そこで、病気に合った遺伝子診断やプロテイン診断などの科学的な診断を臨床現場に取り入れ、各疾患の状態に則して患者を層別し、層別データを元に個々の患者に最適な医薬品を提供することが個別化医療なので、現在市販されている全て医薬品を、動的バイオマーカーから解析された遺伝子やプロテインなどの診断マーカーを詳細に解析して患者を層別することで、現在市販されている全ての医薬品から患者にあった薬を的確に選ぶ必要があることを前回話しました。

今回は最近盛んになっている抗体や免疫製剤における診断マーカーの重要性について話したいと思います。例えば夢の抗がん剤と言われた癌免疫治療薬のオブジーボでも、効果のある患者は2~3割であるが、診断マーカーが無いために7割強の効かない患者にも使用していて、健康保険財政を圧迫しています。更に、抗体薬で乳がんの特効薬と言われたハーセプチンも、診断マーカーはHAR2タンパクに陽性のチェックで陽性の場合に使用することになっていますが、陽性の患者の3割強は効かないことが報告されています。

久しぶりですが、皆様良いお年をお迎え頂けたでしょうか?  今回は個別化医療と創薬に焦点を絞って話したいと思います。

前回の最後で、次回は低分子・中分子創薬の今までの考えを変えるかも知れないAntibody-drug conjugate(ADC)製剤に関して説明しますと言って、その後中断して失礼いたしました。 低分子・中分子創薬の場合、ターゲットプロテインを用いた阻害物質のバインデングスクリーニングだと脂溶性の高い化合物が多く見つかり、殆どが体内動態の悪い化合物が多いと以前にお話ししました。

どの様な薬でも人体では異物と判断し、必ず体外に排除する代謝機能が働きます。また抗体などの高分子化合物や免疫製剤などは体内防御機構が働き、抗原抗体反応や自己免疫疾患のような拒絶反応を引き起こした場合、異物と認識されて化合物は一切薬にすることが出来ません。この代謝機能と防御機構には個人差があります。

ターゲットバリデーションより見つけられた創薬標的プロテインを用いて創薬リード化合物の探索(Screening)を行います。その場合低分子医薬か、抗体医薬か、プロテイン-プロテインインターラクション(PPI)を阻害するようなサイクリックペプタイドのような中分子医薬か、更に最近話題になっている免疫阻害剤のどのリード化合物を探索するかは、その標的プロテインの機能から判断する必要があります。

疾患の動的ネットワークのプロテインープロテイン相互作用のシステム、すなわち、それぞれの疾患における臨床バイオマーカーの解明し、更にゲノムの情報や臨床検査に用いられている項目の値などを取り入れ、IT技術を用い総合的に判断することで、その疾患の患者さんの層別が出来ると考えています。

標的疾患の臨床試料から抽出される「動的ネットワーク」を構成するタンパク質群に対する薬剤などのキネティックスが解析されれば、一気に疾患メカニズムと治療標的、候補薬剤の同定に迫ることが可能となります。

東京大学生産技術研究所の会原幸一先生らは臨床バイオマーカーで正常(健康)状態と異常(疾病)状態の違いを定量的に示すことができるため、癌、心臓病、糖尿病などの診断において広く使われていますが、従来の静的バイオマーカーは、正常状態と疾病の早期状態や病態悪化の初期状態の違いをはっきり識別することが困難(なため)で、疾病の早期診断や病態悪化の予兆検出をするには有効ではないため、正常状態と病態の臨界状態、病態初期状態あるいは病態悪化の動的状態遷移過程をはっきり識別することが出来る動的ネットワークバイオマーカー(DNB:Dynamical Network Biomarker)を提案しています。

前回述べたように現症診断にまだ多くを頼っている臨床の現場と、ゲノムから解析されたバイオメカニズムを用いターゲットを予想して科学的に開発された医薬品の間に、まだまだ大きな谷があって、そこを科学的に結びつけることがまだ十分でないためにその谷を埋めることが出来ないのが現状ではないでしょうか。

それでは、本題の「創薬よ何処へ」に入りましょう。そこで初めは創薬研究現状と個別化医療などについて少し考えてみたいと思います。 近年創薬の分野は、以前から行われてきた低分子医薬、1990年後半から盛んに開発が行われ2000年初頭に製品化された抗体医薬、更にプロテイン-プロテインインターラクション(PPI)を阻害するようなサイクリックペプタイドのような中分子医薬や、ロシュ・ジェネンテックの抗がん剤のKadcylaのような抗体を用いた低分子医薬のドラッグデリバリーシステムであるAntibody-drug conjugate(ADC)分野、また最近話題になっている日本で小野製薬が発売した抗がん剤のオブジーボの様な免疫阻害剤の分野などと多種多様になり、そこから出てくる医薬候補品も多彩になっています。

日本ロシュから鎌倉研究所に日本電子の質量分析装置のD-300が納入されるのでその日から出社して欲しいと連絡があり、昭和56年6月にD-300と一緒に入社することになりました。ただ、念願だったFABイオン化をD-300にどうしても付けたい思い、当時日本電子の営業担当だった栗原氏(現日本電子社長)にD-300に一番小さい電子顕微鏡の電子ガンを付けて欲しいとお願いしたら、栗原氏から「中山さん、それはFABイオン化をしたいのでしょうか?今日本電子の応用研究室で開発をしているので、2か月後に付けることが出来るので待ってください。」と言われました。

はじめまして。バイオシス・テクノロジーズの中山登です。 もう中外製薬を退職して2年以上になりますが、未だに「ロシュ・中外の中山さん」とよく言われ、こちらの元の所属の方が皆さん良くご存知のようです。