2018年度Precision Medicine国際学会の開催式でEmmanuelle Charpentier、Alan Ashworth、John Bell、そしてRon Levyが特別賞を受賞


2018年度Precision Medicine国際学会(PMWC 2018 SV)は1月21日、カリフォルニア・サンフランシスコ大学(UCSF)ミッションベイキャンパスのジェネンテックホールでの特別賞式典で開幕した。MCをしたのはUCSF医学部副学長であり細胞薬理学教授のキース・山本博士(PhD)だ。
PMWCルミナリ賞は、画期的なCSISPR-Cas9ゲノム編集技術の開発をリードしているEmmanuelle Charpentier博士に授与された [写真:Yamamoto博士から賞を授与されているCharpentier博士(写真提供:Rosalyn Lee)]。この賞はパーソナライズド・メディスンの臨床市場に貢献した著名人にPMWCから贈られるものである。



PMWCパイオニア賞は3名に贈られた:BRCA2遺伝子突然変異の共同発見および乳癌や他の癌におけるPARP阻害を導く発見を行った、Alan Ashworth博士;英国および世界的に精密医学を可能にする遺伝子・ゲノム研究をリードしてきた、オックスフォード大学のSir John Bell博士;そして、癌治療のための初となるFDA承認抗体(リツキシマブ)を開発したRonald Levy博士である。PMWCのパイオニア賞は、同業他社の技術や奨励があまり進化していないにもかかわらず、パーソナライズド・メディスンの進展に貢献した人物に与えられる。これまでのPMWC受賞者には、Jennifer Douda、Lee Hood、George Church、Francis Collinsなどがいる。

公式のPMWC 2018 SVは1月22日(月)から24日(水)まで、マウンテンビューのコンピューター歴史博物館にて開催される。今年のPMWC SVは約1,500人の出席者を予定しており、350人以上のスピーカー、250社、および多数の出展者が出席する見込みだ。これらはTal Beharと夫Gadi Beharによってオーガナイズされている。


山本博士はまず、各受賞者の素晴らしい貢献を称えた後、今年9年目となるPMWCが、科学、政府、および産業の幅広いステークホルダーが交流することの出来る場所であるかを称えた。そして、主催者であるTalとGati Beharに感謝の言葉を述べた。次に、UCSF学長のSam Hawgood博士からの挨拶があった。博士は、UCSFは精密医学を理解し、その前進を深く信じていると語った。我々は「歴史の変革の瞬間」にあり、現在は「生物医学におけるルネッサンス」を経験していると述べた。

次に、PMWC2018プログラム主催者であるスタンフォード大学メディカルセンター腫瘍学教授のGeorge Sledge博士が次回の会合について語った。著名スピーカーと最先端のトピックで素晴らしい学会になると信じて、現在が「革命期」であり、「革命家たちがここにいる」と述べた。

山本博士は続いてルミナリ賞受賞者のCharpentier博士の紹介に移った。Charpentier博士が科学での tour de force を成しえたと述べた。彼女が幼少の頃「研究を進めるための何かをする」と母親に誓ったことは確かに成されたのである。「基礎研究は進歩にとって不可欠である」というCharpentier博士の考えは正にその通りである、と山本博士は強調した。

Emmanuelle Charpentier博士は分子医学とゲノミクスにおいて最も顕著な科学的成功事例の一つに携わっている。それは、CRISPR-Cas9の発見である。これは革命的であった。RNAプログラムされたDNA片を使って生物のDNAを変更することが出来る。それはフィルムエディターがフィルムを切って新しいフレームにスプライスするのと同様で、実にシンプルなテクニックだ。この「分子はさみ」は発見以来世界中の研究室から引っ張りだこだ。従来の方法よりはるかに正確で効率が良く、コストパフォーマンスも高いため、すでに多くのラボで必要不可欠なものとなっている。

Charpentier博士はヒトの遺伝子疾患を、遺伝子を特異的にターゲットすることで治療できることになると、この発見の可能性を予見していた。彼女がこの20年で行った研究は5大陸を跨ぎ、計9つの研究所が参加した。これらはウィーン大学微生物・遺伝学研究所、分子生物学センター、マックス・F・ペルツ研究所、ウメオ大学の分子生物学研究所(MIMS)、ブラウンシュヴァイクのヘルムホルツ感染症センター、そし教授としても在籍していたてハノーバー医科大学である。

2013年に共同設立した遺伝子治療会社、CRISPR Therapeuticsは、世界で最も豊富に資金を提供されている前臨床バイオテクノロジー企業の1つになっている。 Charpentier博士が受賞した多くの賞には、アストゥリアス王女科学技術研究賞、ルイスジンテット賞、医学のエルンストジョン賞、ライフサイエンスの2015ブレークスルー賞、2016ライプニッツ賞、 2017年日本賞などが挙げられる。Charpentier博士は、ルミナリ賞を受賞した際に、このように表彰されるのは「本当に嬉しい」と言い、自身のもたらした進歩は、元々は「細菌の興味深い現象」の調査から思いがけず生まれたものであったことを述べた。

次に、UCSF学長Sam Hawgood博士により、「優秀な癌研究者」としてパイオニア賞受賞者・Ashworth博士が紹介された。
Alan Ashworth博士(PhD)は2015年1月にUCSFに所属する前、癌研究研究所(ICR)の最高経営責任者、そしてロンドンのブレークスルー乳癌研究センターのディレクターを務めていた。

生物学者であり研究者でもあるAshworth博士の研究は、患者の治療とケアを改善するために乳がんの遺伝学を理解することに焦点を当ててきた。彼は、数種類の癌のリスク増加に関連するBRCA2乳癌感受性遺伝子を同定したチームの主要メンバーでもある。それから10年後、BRCA1およびBRCA2関連腫瘍細胞を、それらの癌細胞の破壊されたDNA修復機構によって引き起こされる損傷を増加させる薬剤であるPARP(ポリADPリボースポリメラーゼ)阻害剤で治療することによって、それらを死滅させる方法を発見した。これは、癌療法としての「合成致死性」の原則を実証している。現在、3種類のPARP阻害剤がFDAに承認されている。 2016年には、Ashworth博士とUCSFのPamela Munster博士が、米国の2つのセンターのうちの1つであるBRCA研究センターを設立しました。彼はまた、2016年に発足したSan Francisco Cancer Initiativeも開始した。Ashworth博士はまた、総合癌センターの地位を保有する5つのUC癌センターのアライアンスであるUC癌協会(UC Cancer Consortium)の議長を務めており、これは国立衛生研究所の国立がん研究所から受けられる最高位のポジションである。コンソーシアムのプロジェクトには、精密医学、臨床試験、人口保健科学、健康を改善するための大きなデータを活用するベストプラクティス、そして公益のための政治的関与が含まれる。

Ashworth博士は、医学アカデミー、ロイヤルソサエティEMBOの選出メンバーであり、Royal Societyのフェローでもある。今までに欧州腫瘍学会生涯功労賞、Samuel Waxman Cancer Research FoundationのDavid T. Workman記念賞、Meyenburg財団のがん研究賞、Basser Global賞、 ジェネティクス・ソサエティ・メダル、Susan・G・Komen財団の基礎科学において優秀な成績を残したものに与えられるブリンク賞2017などを受賞している。

Ashworth博士はパイオニア賞を受賞した際、「大変光栄です」とPMWCに感謝の意を述べた。1995年にBRCA2突然変異を同定したチームの仕事は、その当時ジュニアPIであったMichael Stratton 氏が彼に2番目の乳がん遺伝子の探索に興味がないかと尋ねたことから始まったのだと語った。 そして10年後、すでにDNA修復が不十分な乳癌細胞においてDNA修復を阻害することが "細胞を殺すための非常に強力な方法"であるかもしれないと考え、取り組み始めた。周囲はこのアイディアに見向きもしなかったにも関わらず、最終的にはPARP阻害剤の開発につながったのである。

Ashworth博士は、数年前参加したパネルディスカッションで会った癌患者女性の話をした。女性は第4期卵巣癌と診断され、標準的な化学療法を受けたのだが、6ヶ月後に再発したという。彼女はBRCA2突然変異を有することが見出され、PARP阻害剤で治療された。彼女は3年後も健在で、将来的に進行する可能性は皆無ではないものの、その時点での再発は見られず、おかけで彼女はその3年間子供の成長を見守ることが出来た、と Ashworth博士は述べた。この時間が彼女にとってどれほど貴重なものだったか分かるだろうか。 Ashworth博士は、このような進歩を見るのは「大変嬉しい」ことではるが、まだ完全ではないと注意深く言う。まだまだやるべきことがたくさんあるのだ。

次に、オックスフォード大学ウェルカム・トラスト・センターのディレクターであるPeter Donnelly博士と副議長でGenentech癌免疫学のIra Mellman(PhD)氏がBell教授を紹介した。
Mellman博士は特に、スタンフォード大学のHugh McDevitt博士の研究室で1982年に始まったBell教授のMHC遺伝子座および自己免疫に関する精緻な研究を評価した。イギリス紳士的な振る舞いに反し、全くイギリス訛がない、とBell教授にジョークを飛ばす一面も見られた。
Donnelly博士はBell教授の趣味にも触れ、精神医学、家族、ローイングの3つを挙げた。過去15年間、ローデスの元学者であったBell教授が、オックスフォードのローミングクルーのための有力なストラテジストを務めたこともDonnelly博士は称賛した。
遺伝・免疫学者Sir John Bell教授は、オックスフォード大学医学部のレジアス教授(王HenryVIIIによって確立された立場)である。2006年には英国国立健康研究所と医学研究評議会の研究課題を調整する機関である健康研究の戦略的調整のためのオフィスの議長に任命さた。医学アカデミーの創設者フェローであり、2006年から2011年にかけては議長も務めた。アカデミーが提出した非常に有力な報告書「Strengthening Clinical Research」を作成したワーキンググループを率いり、トランスレーショナルリサーチの専門知識を開発している。
1993年には、遺伝子疾患の多分野研究機関、ウェルカム・トラスト・センターを設立した。また。3つのバイオテクノロジー企業の創設責任者でもあり、ロシュ委員会の非執行メンバーでもある。

その他にもOxford Health AllianceとBill and Melinda Gates Foundation科学諮問委員会の会長を務めている。これは世界各地の慢性疾患に関する研究とアドボカシーを後援する民間の公的パートナーシップである。
Sir John教授は糖尿病や関節リウマチに関与する遺伝子を同定した免疫学と遺伝学の研究プログラムを指導し、多数のハイスループットゲノム手法を先駆けて支援してきた。
Rhodesの奨学生としてオックスごーどで医学教育を受け、ロイヤル・カレッジ・オブ・ヘルス・カレッジに入学し、スタンフォード大学の臨床フェローとなった。
医学、医学研究、ライフサイエンス業界における数多くの貢献の他にも、大英帝国のKnight Grand Cross、ロイヤルソサエティのフェロー、インペリアルソサエティのKnight学士、そして2011年には首相によって英国ライフサイエンスチャンピオンに任命された。

パイオニア賞を受賞したBell教授はこう語った。「価値あることの多くは、始め誰もそれを実行する価値があると信じてくれません。」彼は、英国バイオバンクのアイディアがオフィスで浮かんだ時は、その場にいた人のほとんどが相手にしなかったという。しかし15年たった今、「どんどん広がっているでしょう」と確認する。
パイオニアになるためには“ポットショット”のターゲットにされることを覚悟しなければならない。出身地カナダはパイオニアが多いことから、今回のパイオニア賞受賞が特に嬉しい、と彼は語った。病気を予測する能力は「精密医学の最もエキサイティングな可能性」の1つであり、「早期診断が全てなのです」と述べた。

次にAbpro(http://www.abpro-labs.com/)の会長兼CEOであるIan Chen氏が、免疫腫瘍学の進歩に大きな貢献をしたことからパイオニア賞を受賞したRonald Levy博士を紹介した。
Ronald Levy博士は何十年もの努力を重ね、腫瘍細胞侵襲に対する抗体を開発するため、体の免疫システムを使用する方法をやっと見つけ、癌を治療する最初のFDA承認抗体ベースの薬剤リツキシマブの開発につながった。 1997年にリンパ腫を治療するリツキシマブが成功し、副作用の少ない腫瘍の退縮をもたらした。リツキシマブは現在、独立型治療として、または他の治療法と組み合わせて、あらゆるリンパ腫患者に使用されている。Levy博士は現在、患者が治療を受けるにつれてより一般的になる非応答性のリンパ腫細胞を研究している。これは、腫瘍の幹細胞集団と考えられる細胞亜集団であると博士は考える。

Levy博士は関心は医学キャリアの早い段階から免疫システムに対して関心があり、その後イスラエルのワイズマン研究所のマイケル・フェルドマン、NIHのスティーブン・ローゼンバーグ、ワイツマンのマイケル・セルラの研究室でさらに深化したそうだ。 Levy博士は、がん細胞が内部防御機構を引き起こさない事があるとしても、身体の防御が癌と戦うために使用され得ると確信していた。
Levy博士は2008年に全米科学アカデミーに選出された。そこで発表された就任記事では、リンパ腫細胞の亜集団が明らかになり、診断時の数はこれらの腫瘍の重症度と致死率を予測していた。

Levy博士の研究はファイサル王国国際賞、ダマスシル賞、アメリカ癌学会栄誉賞、白血病リンパ腫協会のヴィリエ国際功績賞、Memorial Sloan-Kettering癌センターのC.チェスターストックアワード、アメリカ癌学会Karnofsky賞など複数の賞を受賞している。また、国立科学アカデミーおよび医学研究所のメンバーでもある。
Levy博士は、1963年にハーバード大学で生化学のAB学位を、1968年にスタンフォード大学医学部でMDを取得した。インターンシップと研修はマサチューセッツ総合病院で行った。
Levy博士はパイオニア賞受賞のスピーチでは「医科学においてこのように素晴らしい発見がこんなにも休息に起こるのは、なんて刺激的な時代なのでしょう」と述べた。20年前に開発したモノクローナル抗体リツキサンは、 何百万人もの人のがん治療を可能にしてきたのだと誇らしげに語った。
Levy博士は同僚が「君の次のアイディアほどすごいものは無い」と言ったことを明かし、その素晴らしいアイディアを聞くために皆水曜日午前8時のプレゼンテーションに参加するよう呼びかけた。「がんに対する免疫応答を引き起こす、より良い方法」という題である。

Sledge博士はその後、次回の会議について簡単にまとめた。 微生物プロファイリング、循環腫瘍DNA(ctDNA)、免疫腫瘍学、ゲノムプロファイリング、次世代シーケンシング、単一細胞配列決定、システム生物学、人工知能(AI)など、幅広く興味深いトピックについて議論する予定であることを説明した。
山本博士は、夕方のプレゼンテーションが、次世代の若き開拓者達に種を蒔いたであろう、と粋に示唆して式典を閉幕した。

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Edited by Michael D. O'Neill

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