GEN は、一例としてテキサス州のラボがサンプルをLC-MS/MSレファレンス・ラボに送っているが、検査料金の高さが厳しい負担になっていることを挙げている。Texas A&M University System Health Science Center の病理学教授と、関連機関Scott & White Health Care System のLaboratory Information System のMedical Director を兼任するAmin Mohammad, Ph.D. は、「外部のレファレンス・ラボに依頼するテストに年間$500,000を支払っている。しかし、近年になって痛み管理改善やそれと並行してドラッグ乱用の問題が強調されるようになってきたため、この負担が急激に膨れあがっている。当検査室内にLC-MS/MSを備えることができれば、このコストも一気に引き下げられ、サンプルの紛失や取り違えの危険も抑えられる。患者治療の向上も図り、同時に機器購入の投資も1年半で取り戻すことができる」と述べている。
さらにGENは、2台のLC-MS機器を最大限まで使い切っており、3台目購入を考えているRoyal London Hospital のconsultant biochemist、Dr. Sally Bentonの、「私たちにとっては、LC-MS/MSに二つの大きなメリットがある。まず、検査結果の精度。これは免疫学的測定法の弱点であるビタミンDとテストステロンとの場合のように類似した物質によって精度が下がるということがない。また、もう一つのメリットは費用効果の良さで、LC-MS/MSの稼働経費は免疫学的測定法の5分の1程度におさまる。どこでもそうだがイギリスでもコストが大きな要素であり、経費を節約しつつ検査結果を向上させることが至上命令になる」との発言を紹介している。さらにGENの記事は、「検査結果の精度は、必ずやLC-MS/MSに対する臨床医療側の需要を呼び起こす」と述べている。ドイツのLabor Berlin LaboratoryのToxicology and Laboratory MedicineのDr. Torsten Binscheckは、「免疫学的測定法と質量分析計の測定精度の違いはあまりにも大きい。市場には猛烈な圧力がかかっており、臨床医は精度の優れた結果を求めて私たちのところにやってくる」と述べている。
2013年11月1日付のGenome Web に掲載された他の記事では、Integrated Diagnostics, Inc. (Indi) Xpresys Lung検査と呼ばれる、LC-MSプロテミオクス機器を基本とする検査法が発表されたことを報じている。この機器と検査法は、Indiが臨床現場用途に開発したもので、臨床医はサンプルをIndiに送って試験してもらうことができる。この製品は、CTスキャンで発見された肺小結節が良性の可能性大と判断された場合の精密検査目的で開発された。Xpresys は、患者の血液サンプル中の11種類のタンパク質の定量化するために多重反応モニタリング質量分析計を用いている。
2014年6月、Genome Web は、Thermo Fisher Scientific が、同社のカリフォルニア州サン・ホセの施設を医療機器事業所としてU.S. Food and Drug Administration (FDA) に登録したと発表したことを報じている。この登録により、同施設は患者から採取したサンプルのインビトロ診断で分析する機器の製造ができるようになる。サン・ホセ工場は昨年ISO 13485認定を受けており、Thermo Fisher, Chromatography and Mass SpectrometryのPresident、Dan Shineの声明は、「このFDA登録で、臨床医療市場向けにClass I質量分析計を開発するという当社の事業計画が一歩前進する」と述べている。
LDT段階からFDA認可IVDキットにまで進めるためにはメーカーはその機器の510(k)認可を受けなければならない。AB Sciexのスミスは、「特にLDTを開発する能力を持つ検査室が比較的限られていることを考えれば、510(k)認可を取得することにも関心がある」と語っている。Genome Webは、「内部で独自のLDTを開発できる検査室の数は限られており、まだその能力を持っていない検査室にこの技術を送り届けるためには、特定機器用の認可済みキットなど完全なソリューションを用意しなければならない。当社はそれをやろうとしている。ただし、それは時間のかかる作業であり、明日すぐに『キット第一弾を発売します』といえるものではないが、顧客のニーズがある限り、そのニーズを満たすことに尽力している」とのスミスの言葉を引用している。 おそらくLDT市場の規模が小さいためか、あるいは医療機関がまだ質量分析一般に対して慎重なためか、AB Sciex's 3200装置の売れ行きは比較的緩慢である。Genome Webによれば、Smithは、「この装置は徐々に普及している」と言っているが、昨年の発売以来、これまでの販売数量が「何ダースか」程度だとも言っている。Thermo FisherのStrategic Director of Life Sciences Mass Spec and Clinical Researchを務める Bradley Hartは、「将来的には当社の質量分析機器にFDAの認定を確保する予定だ」と語っている。Hartは、Genome Webの出版物「ProteoMonitor」に、「これは将来的に規模が大きくなる製品群の第一弾といえる。現在、業界全体が質量分析計を組み込んだ単純単目的化計器に向かっている。なぜならそこに事業機会があるからだ」と語っている。
「もう一つの大きな障害は装置を購入する際には巨額の初期投資 ($200,000から$400,000) を必要とすることである。この額は小さい検査室なら購入をためらうレベルである。さらには臨床検査室のニーズをサポートする適切な現場サービスに欠けるということも障害になっている。最後に、LC-MS/MSとLISを接続しようとする努力がほとんどなされていないことが挙げられる。これは特に大量の処理を扱う検査室などではサンプルの取り違えや分析後のコピー・エラーをなくすために重要である。それはともかくとして、論文は、「LC-MS/MSは様々な障害はあるが、診断検査室にとっては大きなメリットがある。アメリカでは、Clinical and Laboratory Standards Institute (CLSI) が、LC-MS/MS分析法のバリデーションの統一ガイドラインの必要を認め、専門家を集めてガイドラインの編成’にあたらせている。ガイドラインが発表されれば、患者医療で優れた検査法を保証するために大きく前進することになる。今後、現場サービス、購入しやすさ、自動化、LISとの接続などで臨床検査室のニーズが適切に満たされるようにするためにはメーカーとのコミュニケーションが不可欠になる」と述べている。
2014年11月、CLSIが、臨床化学LC-MS検査法ガイドラインを発表した。この文書は、臨床検査室でのLC-MSの開発とバリデーションに関するガイドラインを記載している。C62-A Document Development Committee Chairholderを務め、メリーランド州ボルティモア市のJohns Hopkins University of Medicine でAssociate Professor of PathologyとDirector of Clinical Toxicology and Point-of-Care Testingを務めるWilliam Clarke, Ph.D., M.B.A., D.A.B.C.C.は、「この文書は、LC-MS分析法開発のベスト・プラクティス・ガイドラインとして有用であり、LC-MS検査法を導入する前に徹底したバリデーションを行うテンプレートとして用いることができる。このガイドラインの普及実施によって現場で多様なサンプルの臨床LC-MSアッセイの整合化が進むことを希望する」と述べている。