脳の中枢ハブにおけるDNAメチル化を生涯追跡して判ったこと

脳の中枢ハブにおけるDNAメチル化を生涯追跡して判ったこと

研究者達は初めて、脳の中枢ハブ内で遺伝子のオンオフを調節する環境反応制御機構の活動を生涯期間追跡することに成功した。統合失調症や自閉症に関与する遺伝子は、発育過程で環境に敏感な臨界期中に活動の抑制がピークに達する遺伝子グループの一つであることが、アメリカ国立衛生研究所(NIH)による研究で明らかになった。DNAメチル化と呼ばれるメカニズムは、胎児から出生後までの重要な移行期中、ヒトの脳の前頭前野内で突然オフからオンに切り替わる。メチル化の増加に伴い、出生後の遺伝子発現は鈍化する。メチル化のような後成的なメカニズムは、遺伝子にタンパク質を産生する化学的指示を出し、どのような組織を産生し、どの機能を活性化するのかを伝える。このような指示はDNAの一部ではないが、親から子に遺伝する。しかし、これらは環境要因に影響されるため、生涯に渡り変化していく。「発達性脳障害は、若い時期に起こるメチル化の変化が起因である可能性があります。例えば、メチル化を行う酵素をコードする遺伝子は統合失調症と関連付けられています。これらの遺伝子は出生前の脳内で学習や記憶など、障害において影響を受ける様々な実行機能の回路網の発達を形づけます。本研究は、これらの遺伝子グループにおけるメチル化は胎児から出生後までの期間中劇的に変化することを明らかにしました。また、このプロセスがメチル化自体および遺伝的変動によって影響されることが分かりました。臨界期である幼年期において、これらの遺伝子の調節は外界からの影響にとても敏感であると考えられます。」と、NIH国立精神衛生研究所(NIMH)の研究員、バーバラ・リプスカ博士は説明する。

リプスカ博士と研究チームは、ヒトの前頭前野(PFC)エピゲノムの生涯にわたる盛退について、2012年2月2日付けのAmerican Journal of Human Genetics誌オンライン版に論文を記載している。「新しい本研究は、遺伝子発現が発育のほんの一部分でしかないことを我々に思い起こさせます。エピジェネティックスは養育と性質を関連づけることで、環境がいつ、どこで、どのように遺伝子配列が解読されるかを示しています。」と、NIMH所長、トーマス・R・インセル博士は語る。NIMH研究チームが去年10月に発表した付随研究では、生涯にわたるPFCの遺伝子産物の発現を追究した。これに代わり本研究は、そのような発現を調節する、PFC遺伝子内の27000ヶ所でのメチル化を試験した。両研究とも、受胎後2週間から80歳までの非精神障害者の死後の脳を調べた。

ほとんどの場合、メチル基と呼ばれる化学物質が遺伝子の調節領域に付着することで発現が抑制される。通常、メチル化の増加に伴い遺伝子発現は現象する。全体的なPFCメチル化レベルは、遺伝子発現が最高潮の出生前は低く、遺伝子発現が急落する幼少期に増加する、リプスカ博士と研究チームは発見した。その後、メチル化レベルは成長と共に均一になる。しかし、いくつかの遺伝子におけるメチル化はこれと反対の軌跡を示している。本研究はメチル化が性別、年齢、そして遺伝的変動によって大きく変化することを明らかにした。例えば、男性と女性では試験されたX染色体部位の85%においてメチル化レベルが異なっていた。これは、自閉症や統合失調症における性差を解明するのに役立つ可能性がある。

異なる遺伝子およびそのサブセットは、異なる年齢でメチル化される。関与が予測されるいくつかの遺伝子におけるメチル化は、メチルトランスフェラーゼと呼ばれる酵素の起始コード辺りでピークに達することが分かった。メチルトランスフェラーゼは統合失調症および双極性障害において過剰発現されている。このプロセスは、他の遺伝子のメチル化および遺伝的変動に影響される。そのため、このような精神疾患を発病するリスクをもつ遺伝子は、遺伝性DNAに加えてメチル化を通して遺伝子発現に影響を及ぼす可能性がある。

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Edited by Michael D. O'Neill

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