2021年8月、行政は夏休みを延長したりしていますが、こどもたちが学校へ通い始めると、感染者数がおさまらない現状では不安が多いかと思います。あえてこのタイミングで発表したのか定かではありませんが、東北大の研究グループが、新型コロナウイルスについて、こどもたちからの二次感染の割合が低いことを報告しています(Front. Pediatr., 10 August 2021)。解析の対象は小児科領域の患者さんですが、これはインフルエンザなどの感染様式とは大きく異なる特徴です。また、中高生の二次感染率は小児の中では高くなっているようです。文科省は8月27日、学級閉鎖あるいは全学休校のガイドラインを発表しましたが、物事を一律に考えるのではなく、個別に状況を精査する姿勢をとるべきです。こども同士では新型コロナウイルスはうつりにくい。したがって、学校や学習塾で起こっている集団感染は、成人から個々のこどもたちへ伝播したもので、このごろの変異株は感染力が高いので、集団感染のかたちで報告されているものと考えられます。私も小学生以下のこどもたち同士で憑りにくいという印象を持っていましたが、このようなデータが出てくると、自信を持ってこの先の議論を発信することができます。

2021年の初夏、100年前を振り返ってみると、どんなに医療技術が進歩していようが、そう簡単には収まらないでしょう。つい先日、私のところへも保健所から「新型コロナウイルスワクチン接種クーポン券」なるものが送られてきました。 

これは、以前お話しした『抗体のパクリはありうるか』でも触れたので思い出してください。

血清中の抗体は抗原分子を結合していないはずです。いや、『抗原分子をゆるく結合しうる』と表現したほうが正確でしょう。

2020年の晩秋から初冬、一年前には全く予想していなかったことですが、人々の思考領域は極度に偏っています。私も、抗体に関わるおもしろそうな話題を考えようと努力をしているのですが、どうしても同じところに行きついてしまいます。ちょうど今、 Covid-19 のワクチンは、臨床試験で有効性が確認されて実用しようという時期です。 脅威を身近にしている方々は、ワクチンを心待ちにしていて、すぐにでも投与してほしいと願っているようです。 

2020年3月は、文科省管轄下の学校が臨時休校になる騒ぎではじまりました。このウイルス、ゲノム配列を見てもいまひとつわからないところが多いです。ORFに基づくワクチン設計は既に進めているようですから、そのうち有効なものが出てくると思います。ウイルス感染と抗体に関しては、それほど意外性のあるネタを持ち合わせてないので、今回は番外編です。

以前、「抗体をつくるならば C 末端を狙うべし」と書きました。少し復習すると、折れ畳まってコンパクトな形をつくっているたんぱく質において、末端領域は比較的ふらふらしていることが多いです。

抗ペプチド抗体を作ったときは通常、調製した抗血清をカラムにかけて目的の抗体(igG)を精製します。一般的には、抗原に用いたペプチド、あるいは関連ペプチドをアガロースやセルロースのビーズに固定化して、アフィニティーカラムを準備します。 

私が抗ペプチド抗体をはじめたきっかけは、以前に書いた通り、ペプチド合成機に出会ったからです。1980年代後半のことでした。東京大学医科学研究所の三号館地下の一室に鎮座していたアプライドバイオシステムズ社(当時の社名)の430A は名機でした。 

実験には失敗がつきものです。なぜかというと、研究を推し進めるための実験は、ひとつひとつの実験結果をどう解釈し、次の実験をどのように計画するかによって、真実に近づくための手段となるか、道を踏み外して結局は無駄になってしまうか分かり得ないからです。 

たんぱく質のリン酸化は、数ある翻訳後修飾の中でも可逆的な反応の一つで、細胞内外の環境に呼応して起こるので、生体の情報伝達に関わる現象として研究されてきました。リン酸化されるアミノ酸残基は、主としてセリン(Ser; S)、トレオニン(Thr; T)およびチロシン(Tyr; Y)残基で、この反応を触媒するプロテインキナーゼは、リン酸化される部位の比較的狭い範囲を標的として、ATP からリン酸基を転移します。 

曽て在職中に駒場キャンパスにある大学院を兼担していたことがありました。文系と理系が融合した総合文化研究科という大学院で、その中に生命環境科学系というグループがありました。 

生体サンプルを SDS ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)にかけて膜に転写し、抗体で解析することは多々あると思います。このイムノブロット法は、抗体を活用するための基本的方法のひとつですが、難しいと敬遠される方もおられます。それは、実験操作の煩雑さだけでなく、何箇所か失敗しそうなステップを通らなければならないからです。それから自動化が難しいことも理由の一つです。  

私がまだ在職中、遠心機メーカーで技術を担当されていたかたが来られて、退職してロボットを受託して作る仕事をはじめたとのこと、そのときは漠然と「個別作業に特化した自動装置なんだ。それは良いな」と思ったものですが、いま改めて考えると、スモールビジネスとしては素晴らしいことと感心します。いまはどうされているでしょうか。バイオ研究の世界にも実験スタイルに変遷があります。 

2016年冬のプロテオミクス界の話題によると、1200種以上の代謝系酵素の発現量を定量解析する受託サービスがスタートするようです。Wmの憂鬱、やっとシステム生物学が動き出す(出典:日経バイオテクONLINE)リンクを辿ると4年ほど遡りました。ということは、バイオビジネスとして完成させるのに4年かかったということです。 

2016年10月、ノーベル生理学・医学賞は大隅良典博士に決定しました。最初に申し上げておきますが、大隅先生とは抗体に関わる接点はないです。1 979年、私は今堀和友教授に修士課程の大学院生として弟子入りしました。

電気泳動で分離した生体高分子をニトロセルロース、ナイロン、テフロンなどを担体とする膜に転写することをブロッティングと呼びますが、たんぱく質の転写にはウエスタンブロッティングという通称があります。たんぱく質の電気泳動は、ポリアクリルアミドを支持体とするゲルでおこなうことが多く、転写も電気的に移すエレクトロブロッティングになります。 

目的の抗体をうまく作れたけれど当面の実験には十分すぎるほどの量で、これをどう保存したら良いか、これは贅沢な悩みかもしれません。モノクローナル抗体の場合は、抗体産生細胞を凍結保存して液体窒素下に保存すれば、必要なときに細胞を起こして抗体を得られます。 

抗体は、抗原を動物に免疫し一定期間の後に出現する抗体産生細胞(Bリンパ球)を単離して不死化するか、免疫動物の末梢血に分泌された抗体を抗血清として回収して得られます。前者がモノクローナル抗体、そして後者がポリクローナル抗体で、抗血清からアフィニティー精製などによって抗体分子を純化して実験等に使います。 

皆さんタグの抗体は実験でお使いかもしれません。His タグ、FRAG タグなど、タグの配列を組換えたんぱく質に入れ込んでおくと、遺伝子導入したたんぱく質を抗体で高感度に検出できるという便利なツールです。今回は、ペプチドの化学合成でタグとして ジニトロフェニル(DNP)基を導入する方法と抗 DNP 抗体の活用についてです。DNP は代表的なハプテンで、モノクロ、ポリクロにかかわらず使える抗 DNP 抗体がたくさん出回っています。

抗原性はあるが免疫原性をもたない低分子物質をハプテンといいます。なるべく多くの人に読んでもらいたい文章を書こうとするとき、このような導入法は NG ですね。冒頭の一文にある専門用語のうち一つでも理解しがたい言葉があったときは、続けて先を読む気がちょっと失せ、2つ以上あれば中断します。数多ある書物の中、ごくわずかのベストセラーが存在するのは、内容、書き方、それから世に出るタイミングが合致したときなのかなとつくづく感じます。 

検出用抗体は先の抗体とは別の動物で作った抗体でなければなりません。例えば、プレートに固定化する抗体がマウスで作ったモノクローナル抗体ならば、検出用抗体はウサギで作った別のエピトープに対するポリクローナル抗体といった組み合わせです。標識酵素は、検出用抗体に直接つけても二次抗体として用いる抗ウサギ IgG 抗体につけても良いです。標識二次抗体は多数市販されていますので選べます。

新しく抗体を作るときに、目的の抗体ができているか見極める評価法をどのようにされますか。一般的には、免疫原として利用した抗原とは異なった材料を評価に用いるのがよろしいです。 

通勤や仕事で外出する際にはカバンをお持ちになることが多いかと思います。好みにも依りますが、ゆったりした大きめのカバンで中身が少ないときは自立しなくてヘナヘナと倒れてしまうことがありますね。そういうときに「カバンの骨」があると良いようです。ご自分で工夫されている方もおられるかもしれませんが、実際に売ってるのを知りました。 

ポリクローナル抗体は、幾つものモノクローナル抗体が混ぜ合わさったものですから、わざわざエピトープマッピングをする意味がありません。しかし、抗血清をあえてエピトープ解析すると面白い結果が得られます。抗ユビキチン抗体の例を紹介しましょう。 

大きなたんぱく質に対してモノクローナル抗体を作成したときは、その抗体が抗原のどの部分に結合するかを知りたいものです。抗体が結合する抗原の部分構造を抗原決定基あるいはエピトープといいます。たんぱく質(ポリペプチド鎖)が抗原となった場合、エピトープの大きさは数アミノ酸残基ほどとも言われています。 

細胞の形質膜を一回だけ貫通して細胞表面に表現されるたんぱく質に対する抗体を考えてみましょう。がん細胞などでこのようなたんぱく質が特異的に発現していると、良い腫瘍マーカーになることが期待されます。抗体作成には免疫原に用いる抗原が必要ですが、膜たんぱく質の遺伝子がわかっているときは、組換えたんぱく質を大腸菌などで発現させて免疫原を調製するか、遺伝子の配列に基づいてペプチドを化学合成することになります。 

2015年のノーベル生理学・医学賞は皆さんにとってサプライズでしたか。 私はこういう評価も当然ありと考えます。前評判が高いトレンディな研究よりも、地道に長年かけて積み上げた研究成果は、いずれはいろいろな意味で芽を吹き始め、科学にとって大きな財産でもあります。 大村智先生とはじめてお会いしたのは1995年の秋だったと記憶しています。 

細胞を扱って実験されたことがあるかたは CD 抗原になじみがおありかもしれません。CD は cluster of differentiation のことで、白血球の細胞表面抗原を「CD」の後ろに番号をつけて示しています。 

標的とする抗原が未同定のモノクローナル抗体をもっている研究者から以下のような相談がありました。「がん細胞に高発現している抗原に対するモノクローナル抗体をもっています。がん細胞の全たんぱく質を SDS-PAGE で分離しイムノブロットをおこなうと分子量が60K あたりのバンドが染まります。抗体が結合するバンドを質量分析計などを利用して同定したいと考えています。 

このごろ商標デザインをはじめ各分野での盗用を耳にします。少し前には研究のスキャンダルが一般社会へ漏れ出て大騒ぎになりましたね。ここでは、抗体は知的財産として確立するか、いいかえれば抗体を盗作してはいけないかという話を簡単に解説します。なお、私は法律の専門家ではないので、つきつめたところの判断はできません。 

研究論文に記載されている抗体は良い抗体だと思いますか? なぜこんな質問をしたかというと、手持ちの抗体を売ってもらう場合、論文を引用できることが必須条件だそうです。 もちろん、発表論文を見ればどんな抗体であるかわかるので、わざわざ効能書きを用意する必要がないです。

実験操作の「固定」についてです。「固定(fixation)」はもともと、顕微鏡観察用の標本を作成する際に形態を保持するために加熱、凍結、薬品などで処理することをいいます。この過程でたんぱく質は変性・不溶化することが多いです。  抗体を用いた顕微鏡観察やフローサイトメトリーでは、サンプルの固定が必要になることがあります。 

今夏2015の暑さは異常と言ってもいいほどで外を歩くのが怖かったですね。猛暑日にエンジニアが駆け込む場所はサーバールームという記事を見て大学在職時の実験室を思い出しました。大きなフロアには低温室があって真夏に出勤したときはまっすぐここに駆け込んで涼んだものです。 

たんぱく質に対する抗体を作るときは、免疫原としてそのたんぱく質が必要です。以前は、たんぱく質を精製・純化しましたが、遺伝子が単離されているときはリコンビナントたんぱく質を用いることが多くなりました。そして1990年代に入ってペプチド合成の技術が普及しはじめると、たんぱく質の一部分を化学合成して免疫原に使う抗ペプチド抗体も選択肢のひとつに加わりました。 

モノクローナル抗体の作成技術は、Köhler と Milstein によって1975年に報告された画期的方法です。抗体産生細胞であるBリンパ球を腫瘍細胞と融合させて不死化することにより、単一の抗原決定基に対する抗体をつくる細胞をクローン化して増殖させることができます。 免疫動物の抗血清から調製したポリクローナル抗体と比較したときのモノクローナル抗体の特長を辞典で調べて列記してみました。

分子生物学的技法をもっていて様々な抗体をつくりたいと思うとどうしてもここへ行き着くようです。一本鎖抗体(scFv, single chain Fv)は、抗原との結合に必要な抗体遺伝子の部分(重鎖と軽鎖の可変領域、それぞれ VH と VL)をリンカーを介して繋げた断片としファージに組み込んだものです。 

抗体って教科書や辞典で調べると例外なく、外来抗原に対して産生される抗原結合たんぱく質というように説明があります。それでは、血液中に存在する抗体=免疫グロブリンは何に結合するのでしょうか。血漿たんぱく質でもっとも多いのはアルブミンですが、免疫グロブリン(抗体)もその数分の一は普通に存在しています。 

はじめまして、大海 忍(おおうみしのぶ)です。抗体にかかわる話題を提供することになりました。私がはじめて抗体を意識したのは1970年代後半で大学院生の頃です。研究テーマの対象が原核生物だったせいか、高等動物の複雑なしくみを何となく避けていたようにも思えます。